マティス氏といえば、“マッドドッグ”(狂犬)の異名をもつ。トランプ大統領も米国の記者団を前にそう呼んでいた。狂犬というと、やたら吠えてかみつく手のつけられない人物を想像してしまう。だが、稲田防衛相と並んで記者会見したときの対応ぶりは、これまで海兵隊大将や米国中央軍司令官を経てきた歴戦の軍人として、「狂犬」というより「猛将」の貫禄を見せつけた。
稲田・マティス会談の最中にも米国では次から次へと前代未聞のニュース満載だ。矢継ぎ早の大統領令のなかでも大騒ぎになったイスラム圏からの移民規制。それが連邦地裁によって一時差し止めの仮処分を食らった。トランプ大統領が激怒したのは言うまでもない。差し止めの即時停止を求め、抗告するなど対決姿勢を鮮明にした。
トランプ政権の「秘密兵器」マイケル・フリン
このまま移民規制の大統領令が流れてしまうと、トランプ政権の面目が立たない。大失態といわれても仕方ない。トランプ政権の面目が失われるばかりか、その大統領令起草のリーダーシップをとったスティーブン・バノン首席戦略官の顔もまるつぶれになる。この事態をどう巻き返すか。その切り札と目されているのはマイケル・フリン国家安全保障担当・大統領補佐官である。陸軍中将、国防情報局(DIA)局長の経歴があり、イスラム差別主義者としてバノン氏と並び立つ存在だ。
フリン氏は国防長官の候補と目されていたが、イスラム嫌いという悪評があり、議会承認が難航するのではないかとの前評判もあった。そこで議会承認を必要としない大統領補佐官となった。そのフリン補佐官はトランプ政権の「秘密兵器」ないし「最終兵器」になるというのがウォール街の見立てである。フリン氏は同志のバノン氏のメンツだけでなく、トランプ政権そのものの面目を保ち、かつ巻き返しの立役者として頭をもたげてくるというのだ。
筆者がよく知るウォール街における見立てはこうだ。トランプ大統領がオバマ前大統領と対決する姿勢を鮮明にし、その戦いの秘密兵器にフリン補佐官がなるというシナリオだ。トランプ大統領の支持率は50%を割っている。それに比べてオバマ前大統領の支持率は圧倒的に高い。2008年に就任した時の支持率と退任した時の支持率が同じというのだから、あっぱれオバマ前大統領こそ「ミスター高支持率保持者」だ。トランプ大統領と比べると、米大統領史上まれにみる両極端の支持率だ。トランプ大統領にはそれが気に入らない。
いま米国が抱えている安全保障上の苦難はすべてオバマ時代に招いたものだとトランプ氏は信じている。イラクやシリア情勢をこじらせ、大敵ISISを育ててしまったのはオバマ前大統領とヒラリー前国務長官ではないか。大統領選挙中、トランプ氏はそう言い続けた。それにもかかわらず、高い支持率を誇るオバマ氏は許せない。我慢できないのは、そのオバマ氏がトランプ政権に対して今も批判し口出しをしていることだ。
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