トランプの難民排除、知られざる意外な矛盾 オーストラリアからの受け入れは否定せず

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ターンブル首相とオバマ政権は、ナウルとマヌス島における収容者のうち、難民と認定された人たちを中心にアメリカに移住させる枠組みで合意した。オーストラリア政府は、年間の難民受け入れ策の一環としてグアテマラなどからの難民を受け入れるという交換条件がある。

ただ、この合意直後、難民受け入れに厳しい姿勢を示すトランプが大統領に当選したことから、オーストラリアのメディアでは「合意が白紙になるのでは」と懸念する論調が大半を占めていた。

オーストラリアメディアも驚いた

結局、ターンブル首相との電話会談でトランプ大統領は、オーストラリア政府と交わした合意は反故にせず、ナウル島などからの難民は予定どおり受け入れることを宣言した。これにはオーストラリアのメディアも驚き、次々に「トランプ政権 ナウルからの難民 予定どおり受け入れへ」と報じている。

だが、冷静に考えるとこの話は不可解でもある。前述したようにオーストラリアが抱える密航者の中にはイランなど、トランプ大統領令の対象となる7カ国出身者も含まれる。つまり、難民の受け入れに難色を示すトランプ大統領が、他方では難民の受け入れを事実上認めるという矛盾に突き当たるからだ。

トランプ大統領とターンブル首相は難民政策の強硬な姿勢でウマが合っているのかもしれないし、背景に米豪2国間のさまざまな利害が関係している可能性もある。現時点で詳しいことはわからないが、これを読み解くことがトランプ大統領の本質に近づくヒントなのかもしれない。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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