天皇の「問題提起」は国会で議論されるべきだ 保守派論客は天皇が示す天皇像に否定的だが

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ところが政府の考えは違うようだ。内閣法制局を中心に憲法にある「天皇は国政に関する権能を有しない」という条文を根拠に、特例法を定める場合には退位の理由、あるいは要件について「天皇の意思」を書き込まない方針だという。

「退位」、つまり役職から身を引くという天皇陛下の意思が国政に影響を及ぼしかねないという解釈である。国政に積極的に関与するという意思表示であれば問題であろうが、天皇陛下の意思は全く異なる次元の話であり、内閣法制局の解釈は倒錯した論理といえる。

その結果、法案は退位の年月日や、退位後の天皇陛下の名称や住居、宮内庁組織などについてのみ書かれた無味乾燥な文言が並ぶことになるであろう。

せっかくの問題提起を無視してはならない

一方、国会では大島理森衆院議長を中心に、「静謐な環境のもとで審議すべきだ」「生前退位問題を政争の具としてはならない」として、法案が国会提出される前に与野党各党間での協議を始めた。落ち着いた空気の中で深みのある審議がなされることは望ましい。しかし、政府と議会が歩調を合わせ、天皇陛下の意思とは無関係に淡々と審議し生前退位を定める法律を成立させてしまうことになれば、せっかくの問題提起は無視された格好になってしまう。

たとえ結論が同じであっても、国会審議の過程で現代日本における天皇制の意味やあるべき象徴天皇像が内閣と議会の間で、あるいは与野党間で議論され、それが報じられれば、国民の関心が高まり天皇制の意義が再認識されることにつながるだろう。

ここはぜひとも国会の奮起を期待したい。そうでなければ特例法は単なる「天皇引退法」になってしまう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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