天皇の「問題提起」は国会で議論されるべきだ 保守派論客は天皇が示す天皇像に否定的だが

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興味深いことに天皇陛下が示した現代の天皇像に対し、伝統的に天皇制を尊重する保守派が概して否定的な反応を示し、逆の立場の人たちが肯定的という逆転現象が起きている。

政府が設けた「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の専門家に対するヒアリングで保守系の専門家からは公的行為に積極的な天皇陛下の考えに否定的な意見が相次いだ。

「天皇は民族の永生の象徴だ。外出が不自由になろうと、陛下が在位のままゆったりとお暮らしいただき、宮中で「とこしへに民やすかれ」とお祈りいただく方がありがたい」(平川祐弘・東京大学名誉教授)

「同じ天皇陛下がいつまでもいらっしゃるというご存在の継続そのものが国民統合の要となっている。ご公務をされることだけが象徴を担保するものではない」(大原康男・国学院大学名誉教授)

「一番大切なのは、国と国民のために祈り続けて下さることだ。天皇陛下は最後まで国民の目に見えるところで象徴天皇としてのお仕事をしたいというありがたいお心だが、宮中で国と国民のためにお祈り下さればそれで十分なのだ」(渡部昇一・上智大学名誉教授)

「天皇はいて下さるだけで有り難い存在だ。天皇に求められる最重要のことは、祭祀を大切にして下さるというみ心の一点に尽きる。その余のことを天皇であるための要件とする必要性も理由もない」(櫻井よしこ氏)

天皇陛下の考えと保守派の論理は異なる

これに対して天皇陛下の考えを評価する側からは、保守派の論理への批判が出ている。

「天皇は存在されるだけでは天皇が象徴であるということに多くの国民の賛同を得ることはできず、長く続くためには国民や社会の期待に沿うあり方が必要」(園部逸夫・元最高裁判所判事)

「天皇は存在されるだけで貴いとか、御簾の奥で祈るだけでいいとまつりあげることは、かえってかつてのような神格化や政治利用につながるおそれがある」(岩井克己・朝日新聞皇室担当特別嘱託)

天皇陛下は存在するだけで意味がある、お祈りするだけで十分だ、などという考えは、旧憲法下における天皇像を理想とするいささか時代錯誤的な発想であり、今の日本において広く国民に共有されるとはとても思えない。そのためにも単に「高齢だからお気の毒だ」というレベルにとどまらない天皇像についての深い議論が展開され、建設的な「国民の総意」が形成されるべきであろう。

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