JR北海道が直面する「老朽施設の修繕費」問題 経営改善へ「鉄道ユニバーサル利用料」を

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仮に「特別修繕引当金」が計上された場合、修繕の実施期間に取り崩されて、当該期間の費用を抑制する効果をもつ。つまり、当該期間の利益減少が回避されるのである。ただし、修繕に要する支出が、固定資産の使用可能期間を延長させ、又は価値を増加させる場合は、その部分に対応する金額は、資本的支出として固定資産の帳簿価額に加算した上で、事後の年度にわたって減価償却費として費用配分する。

2015年度のJR北海道の貸借対照表では、「修繕引当金」または「特別修繕引当金」は計上されていない。他方、JR北海道には2016年度から2018年度まで、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の特例業務勘定を通じた追加支援として、1,200億円がJR北海道に助成金または貸付金の形で提供される。内訳は、設備投資に600億円(助成金1/2、無利子貸付1/2)、修繕費に600億円(無利子貸付)である。

JR北海道は、2016年度以降、修繕費に係る無利子借入金600億円を返済義務のある負債に計上し、返済に応じて負債から減額処理することになる。借入金およびその返済は、期間損益には影響しないが、キャッシュ・フローに影響を与える。

適切な会計報告が理解と支援につながる

一方、JR旅客他社では、東海旅客鉄道(JR東海)が「新幹線鉄道大規模改修引当金」2,450億円を固定負債に計上している例がある。「修繕引当金」または「特別修繕引当金」を計上していない他社は、修繕に要した支出を「修繕費」として支出年度に一括して費用計上しているか、または固定資産の帳簿価額に加算するかのいずれかの会計処理をとっているものと推測される。会社ごとに事情が異なり一概には言えないが、JR東海の事例は、「修繕引当金」または「特別修繕引当金」を設定していない他社にとっても参考になるはずである。

西野氏は構造物老朽化が全国的な問題になる可能性を指摘しているが、鉄道施設で今後必要となる修繕が、全国の鉄道事業者の決算に大きな影響を及ぼしかねないという警鐘と受け止めることもできるだろう。鉄道事業者は、「修繕引当金」または「特別修繕引当金」を計上することでステークホルダーに修繕費負担の全容を早期に報告することが重要である。こうした適切な報告が、ステークホルダーからの理解と支援を得ることにつながるはずである。

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