移動中はメール対応だけでなく、新規顧客を開拓する余地はないかと、常にアンテナを立てている。津野田さんは、街中にベアリングやモーターが使われている製品を見かけると、つい足を止めて見てしまうという。
「東京駅にいたとき、たくさんの観光客が車輪つきのスーツケースを転がしている様子を見て、『ミネベアのベアリングを使えば、ゴロゴロという音をもっと静かにできるのではないか』というアイデアがひらめきました」(津野田さん)。
さっそく、スーツケースのキャスターメーカーに売り込んだが、うまくいかなかった。クロム鋼やステンレス鋼を使ったミネベアのベアリングは、樹脂製のベアリングよりも高性能で、振動を抑えて回転音を静かにできるだけでなく、寿命を長く保てるというメリットがある。しかし、コストの面で、折り合わなかったという。そこで目先を変えて、キャスターメーカーではなく、スーツケースの製造元に働きかけたところ、活路が開けた。ミネベアのベアリングを用いたスーツケースが世に出ることになったのである。
発想転換で意外な用途を開拓
「スーツケースを製造している会社はアパレル業界ですから、ポロシャツにジーンズ姿の方も珍しくありません。展示会などでもスーツ姿の私は浮いてしまいます。しかし、自分の裁量次第でさまざまな業界の方と関わることのできるこの仕事は、とても面白いなと思いました」と語る津野田さん。30歳を目前にした最近は、そのスーツも既製服ではなく、仕立てのいいオーダーものの購入を検討している。
津野田さんがスーツケースのキャスターという新しい販路を開拓したように、部品メーカーの強味は、発想を転換すれば意外な用途でも使え、そこに新たな市場が生まれること。ミネベアもそうした新たな用途の開拓を繰り返して成長を遂げてきた。
たとえばミネベアは、スマホの液晶画面を光らせる「導光板」で世界最薄クラスの0.3ミリメートル以下を実現し、その分野で大きなシェアを獲得しているが、元はノートパソコンのディスプレー用に開発された製品だった。それをスマホに対応できる薄さを実現し、経営の柱の1つにまで成長させたのである。
世間の流行や消費者の嗜好の変化に売り上げを左右されることが多いBtoC企業と比べ、ミネベアのように高い技術力を持ったBtoBのメーカーは、新たな用途を開拓することで常に安定した業績を確保できる。こうした隠れた優良企業に目を向けて、就職先を探してみるのも得策なのではないだろうか。
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