規模を拡大しなければブランドは高まらない−−荻田敏宏 ホテルオークラ社長
--43歳という若さで社長に就任しました。
社長就任は私自身も驚きました。取締役になったのは40歳ですが、すぐ上の取締役でも56歳。なにせ先日副社長から顧問になった清水(紘一郎氏)が入社したときに、私は生まれたぐらいですから。
ホテル業界はホテル経営だけでなく、不動産事業やチェーン運営など多岐にわたります。オークラホテルズ&リゾーツは事業持株会社なので、それぞれの事業に多く携わっていたことが、私の社長就任の理由だと思います。
--就任後の5月30日、「リーガロイヤルホテル」を展開するロイヤルホテルと、販促や宿泊予約業務を共同化する業務提携を発表しました。
ロイヤルホテルとの提携には、デメリットがまったくない。共同出資会社の設立で間接部門の経費が削減できます。また、お客様の情報を相互提供することで、われわれにとってもお客様にとっても、サービス面でメリットを享受できる。
今後他のホテルの参加も募りますが、まだ具体的なオファーはありません。一部で言われるような資本提携も、今は考えていません。
--所有と経営の分離がグローバルなホテル産業の流れです。荻田さんはオークラ神戸で「直営方式」にメスを入れました。
神戸はバブル崩壊と阪神大震災の影響があり非常に苦しかった。1998年、私がヒラ社員のとき、五島(重彰現副社長)の下で改革を行いました。
まず機能ごとに事業組織を再編。さらに、親会社と神戸で所有が分かれていた不動産を親会社で一括管理し、その後外部に売却しました。売却で家賃は発生しましたが、逆に家賃を上回る収益を目指す方針が鮮明になった。現在も業績は順調です。
不動産を売却することに、社内から反発もありました。当時は借金が70億~80億円もあれば不動産を持っていないも同じ、という考えはまだ通用しなかった。
ただ不動産保有を否定するわけではありません。不動産を売却し、ホテル事業に特化したらどうかという話をよく聞きますが、不動産を持つことで、収益の多様化を図れるメリットは大きい。
1日ごとに次の年の予算を作る
--外資系ホテルは、部門別に会計管理を行うユニフォームシステムを広く導入しています。
オークラでもすでに70年代後半から、ユニフォームシステムの考えは入っています。しかしユニフォームシステムは、経営の観点からすると、投資の概念が含まれていない点で万能とはいえません。
私が2007年3月から総支配人を務めたフロンティアホテルつくばでは、稼働率や単価などの経営状況を、月次から日次で把握するようにしました。もちろん予算も日次です。予算は3段階で作ります。挑戦ラインと現実的なライン、採算ギリギリ。そして、それらを従業員も見られるようにしました。すると意識が変わってくるんですね。
さらに1日、そして1週間が終わった段階で、来期の該当週日の予算も作成するようにしました。
--来期の予算をその場で作る?
すぐ作らないと忘れちゃいますから(笑)。そうすれば反省も生かせる。一度に予算を作ろうとすると、どうしてもアバウトになってしまう。来期の予算も3段階で作ります。
予算を明確にすると、従業員に経費管理の意識も芽生えます。外部要因もありましたが、つくばの客室売り上げは、今年2月まで8カ月連続で過去最高を記録しました。
--これまで社長が取り組んだ経営手法をグループに徹底していく?
システムを徹底すれば業績が改善するほど単純ではありませんよ。特に東京は規模が大きいですから。
大切なのは経営手法の意義を従業員にわかってもらうこと。そのために人材教育が必要です。まず人材開発部を設置し、総支配人やその候補者を対象に教育プログラムを始めます。統計学やイールドマネジメント(収入管理)など、多岐にわたる能力を養成します。米コーネル大学と協力し教育制度を整えてもいい。