人工甘味料を「危険」と決めつけるのは問題だ 「ノンカロリーだから安心」とも言えないが…

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しかしこの論文には、多くの専門家からさっそく多くの反論が寄せられています。まずこの論文のタイトルには「Artificial Sweeteners」とあり、各種の人工甘味料で影響が出たかのような印象を与えます。しかし実際には、耐糖能異常を引き起こしたのはサッカリンのみで、飲料などによく使われるスクラロースとアスパルテームでは異常は見られていません。少なくとも、誤解を誘う不正確なタイトルだという批判は免れないでしょう。

また、高脂肪で糖質の少ない食餌、無菌状態で育てた特殊なマウスによる実験結果を、ヒトにそのまま当てはめるのは無理があります。また、ヒトにおいて「人工甘味料の摂取量が多い人に、肥満や糖代謝異常の傾向がある人が多かった」という調査結果も、必ずしも人工甘味料が悪いという論拠にはなりません。太り気味の人は、体重に気を使ってノンカロリードリンクを選ぶ可能性が高いからです。どちらが原因でどちらが結果かは、簡単には決められません。

ヒトに糖尿病を引き起こす証拠は見つかっていない

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これと別の大規模な調査によれば、各種人工甘味料の摂取が、ヒトに糖尿病を引き起こすという証拠は見つかっていません。逆に、砂糖の摂り過ぎと糖尿病の間には強い関連があることが、今や揺るぎないものになっています。要するに、今回の実験結果を見て糖尿病を恐れ、ノンカロリードリンクをやめて通常の砂糖入りドリンクを選んだりしたら、まったくの逆効果になる可能性大です。

サッカリンをヒトに飲ませると耐糖能異常が起きたという実験も、批判の的になっています。被験者がわずか7人で、信頼性が低いことも問題ですが、何よりの問題はサッカリンの摂取量です。実は、この実験で被験者は、1日にコーラ40本分に相当する量のサッカリンを飲んでいます。これだけ飲めば、何らかの異常が起きないほうが不思議でしょう。

ただしこれと別に、低カロリーの人工甘味料を摂取しても太らないという考えにも、異論が提出されています。甘味料を摂取すると、脳は糖分を摂ったと勘違いしてインシュリンを放出するように命令を出し、その結果血糖値は下がります。すると、次の食事でその分多くの糖を摂らないと、満足できなくなってしまうというものです。この説が定説となるか、また実際の体重増加への影響はどの程度かなどは今後の研究を待たねばなりませんが、今のところ「ノンカロリーだから安心」と単純には言い切れないようです。

人工甘味料に限らず、どんなものも異常に大量に摂取すれば、必ず危険はあります。「○○は危険」という情報は、どの程度の量を摂取した場合に、何人中何人にどのような障害が起きたかを知らねば、鵜呑みにはできません。人工甘味料のリスクについて、今後も注視を続ける必要はあるでしょうが、ひとつの情報だけに惑わされずに大局的に判断することも、また重要といえます。

佐藤 健太郎 サイエンスライター

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さとう けんたろう / Kentaro Sato

1970年生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、サイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』(新潮新書)で科学ジャーナリスト賞、2011年、化学コミュニケーション賞を受賞。著書に、『健康になれない健康商品 なぜニセ情報はなくならないのか』(春秋社)、『医薬品とノーベル賞 がん治療薬は受賞できるのか? 』(角川新書)、『炭素文明論』(新潮選書)、『「ゼロリスク社会」の罠』(光文社新書)、『世界史を変えた薬』(講談社現代新書)ほか多数。国道マニアとしても知られ、『ふしぎな国道』(講談社現代新書)、『国道者』(新潮社)の著作もある。

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