新生銀行の八方ふさがり−斬新で高い収益性を目指したが…リテールでもついに赤字
貯蓄過剰の日本では難しいリテール業務
赤字に沈んだリテール。原因は仕組み預金のオプション収益の剥落。利益を単品商品に依存していた。
金利1%で5年後に1%を延長するかどうかの選択権を銀行側が持つ「パワード・ワン定期預金」。04年投入のこの商品が、ゼロ金利下で大ヒットした。八城前社長の古巣であるシティバンクが始めた商品で、1%は金利ではなく、正確にはオプション取引。しかし、ゼロ金利が解除されるとパッタリ売れなくなった。金利上昇は想定されたのに、ヒット商品の開発が続かなかったのだ。
リテールの顧客満足度調査で新生はいつも1位か2位につける。01年からはセブン銀行や郵便局、他の金融機関と提携を広げ、6万5000のATMで24時間365日、手数料無料としたことが効いている。
新生はITで他の金融機関と差別化し、安価なシステムを実現したことで知られる。メインフレームではなく、分散型のパソコンで稼働。標準化されたインターフェースによる、細分化されたモジュールの組み合わせは、シンプルで拡張もしやすい。初期の構築コストは60億円にすぎず、システムベンダーに数百億円の売り上げを落とすのが当たり前の“業界慣行”をぬぐい去った。
それでも、なぜ赤字なのか。経費を抑えても肝心のベースとなる収益が足りない。手数料無料のATMは預金口座獲得の原動力となり、安価な資金調達源として、短期間で220万口座、4兆円を超す預金を獲得した。だが、ローン商品が積み上がってこない。企業に安定した貸出先がないうえ、個人向けの住宅ローンはまだ9000億円。平残ベースの預貸比率は低い(下表)。手数料収益を稼ぐ投信・年金販売も残高7000億円にとどまっている。
また、ソフトを安く上げても、手数料無料で財布代わりに使われるだけでは、むしろ持ち出しだ。提携金融機関に対する手数料は新生が顧客に代わって負担している。逆に、この手数料を受け取って成功しているのが、セブン銀行である。
今期以降の戦略をラフール・グプタCFO(最高財務責任者)は「基本的にリテールは預金が多く負債超過で、貸し出しが少なく資産不足。ノンバンクのCCF部門はその逆。統合して相乗効果を出す」と説明する。
リテール部門の粗利積み上げのために「預金の顧客基盤に対し、投資信託や保険の販売に加え、負債性商品として、住宅ローンのほか、アプラスとの提携による無担保消費者ローンやクレジットカードなどの新商品を投入しつつある」(リテール部門のサンジーブ・グプタCOO)。
ただ、同様の商品で多くの金融機関がしのぎを削る中、本支店が29店と少ないのは圧倒的に不利。運用サイドでは、やはり対面チャネルの壁にぶつかる。インターネットバンキングでどれだけカバーできるのか、疑問だ。それでも、コスト負担の重い店舗投資は限られる。