「高齢者の骨折」はエアバッグで抑止できる 「ヴォルク・エアバッグ」は何が凄いのか

拡大
縮小

高齢者が転倒する瞬間に膨らむエアバッグがあれば、大きな怪我と、それに伴う高額な治療費を、両方とも予防できるかもしれない。

そんな画期的な新製品が「ヴォルク・エアバッグ」を開発した。フィリッポ・ヴァン・ハレンバーグ・フーバー氏は高齢者が転倒して負傷することを防ぎたいと考えている。フーバー氏は、デルフト工科大学の研究者と共同で、

「我々が対象とする高齢者は、平均して1年に2~3回転倒します。ですから、ヴォルクは実際に繰り返し使用できるように設計しました。転倒を検知するとシステムが作動し、ガスの入ったカプセルがエアバッグ内部にガスを放出します。作動後、エアバッグを折りたたんで元の状態に戻せます。そして新しいカプセルを差し込めば、システムは再び完全に作動します」

人間の歩行の専門家が、着用者が転倒しそうになった時を予測するアルゴリズムを開発中だ。

ヴォルクの試作品には、これらの部品が組み込まれている。3つのセンサーが内蔵されたベルトに取り付けて、衣服の下に着用する。

デルフト工科大学准教授のヘイケ・ヴァレリー氏は次のように説明する。

「身体の加速度と角速度を計算し、それを我々が作成した人間の移動モデルと結びつけると、人が転倒しそうなのかどうかが探知可能になります。それらの情報を、ここに内蔵された小さなマイクロプロセッサーが処理し、エアバッグを作動させるのです」

実際は転倒していないのに転倒と判断する「誤判定」をいかに回避するかが課題だ。

高齢者の歩行を再現する訓練を受けた若い俳優が、装置を着用してテストを行っている。現在、5つの老人ホームでヴォルクを年金生活者にテストすることが予定されている。

多くが転倒を原因とする高齢者の股関節骨折は非常に重大な問題であり、この技術は数多くの利益をもたらす、とエイジUK主任研究員のジェームズ・グッドウィン教授は言う。

「この装置が市場に出回れば、その影響は非常に大きいと思います。高齢者や医療制度に数多くの利益をもたらすでしょう。毎日世界中で何千人もの高齢者が転倒し、莫大な医療費が発生しています。怪我の程度を軽減し、医療費を減らしてくれるものなら、誰でも大歓迎するはずです。とりわけ高齢者は本当にこの装置を歓迎してくれると思います。転倒事故による痛みや長期間の治療を要する怪我を予防してくれるならばね」

もし試験を順調にクリアできれば、ヴォルク・エアバッグは1年以内に市場に出る予定だ。

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT