「最初は“軽いうつでしょう”っていう話だったのに、通院するたびにどんどん薬が増えた。あるときに診断書を見る機会があって、そこに“統合失調症”とか“うつ病”とか“不眠症”とか、いろんな病気が書いてありました」
最終的に精神科から8種類の薬を処方された。子育てと長時間労働で体を酷使し、大病を患った。しかし生活保護を受給して精神病院に通院するようになってから、彼女の本当の地獄が始まった。服薬してから不眠はさらにひどくなり、幻聴や幻覚、頻繁に記憶を失う。さらに自傷行為や被害妄想、記憶にないところでヒステリーを起こして暴れるようなことも起こったのだという。山内さんは向精神薬によって破壊されてしまったと考えているようだ。
母親が壊れて、家庭は荒れた。中学生だった長女は非行に走り、家に帰って来ない。万引きや窃盗、家庭内暴力が収まらなくなり、頻繁に警察から電話がかかってくる。さらに小学校低学年だった次女は登校拒否、クラスメートや担任を怖がって学校にいっさい行かなくなった。長男だけは母親や長女が荒れれば黙って耳をふさぎ、なんとか普通に学校に行く。
長女は夜遊びや窃盗だけでなく、売春行為でも補導された。山内さんは警察から連絡があるたびに引き取りに行き、何度も謝る。長女の非行は自分のせいだという自覚があったので、何をしても怒ることができなかった。長女は警察ざたを起こして自宅に戻っても、すぐに家を出てしまって帰ってこない。
「長女に対して、何とか親の役割を果たそうと頑張りましたが、なかなかうまくいきませんでした」
母親は深刻な精神病で苦しみ、長女は荒れて、小学校低学年の次女は引きこもる。そんな絶望的な家庭をさらなる悲劇が襲う。
「最終的にトドメを刺されたのは、4年前にジスキネジア(反射的に体が動く障害)を発症したことです。薬の副作用です。今はマスクをしていますけど、口の周りがもう自分の意志で動かせない。普通の食べ物をかむこともできないし、薬なしではしゃべることもできない。顔の筋肉がおかしくなっているので、マスクを取った顔はとてもお見せできない状態です。鏡には自分でも恐ろしくなるような顔が映ります」
薬を飲み続けるか、死ぬしかない
行政から指定された病院に通院することで、病気が治るどころか破壊されてしまった。山内さんはもう生涯、食べ物をかむことができない。死ぬまでミキサー食やゼリーを食べるしかない。マスクを取った素顔で外出することも、もう二度とかなわないという。
「行政や病院がおかしいと思ったのは、遅いのですが、ジスキネジアを発症してからです。患者の私たちには何の情報もない。だから疑うだけですが、それは生活保護の患者を精神病院が食い物にするということ。すべてが薬を飲んでから始まっているし、そうとしか思えない。どんな病気であっても病名をつけて薬を出せば、患者は一生通う。私はもう症状を薬で抑えることができても、病気は生涯治ることはありません。薬を飲み続けるか、死ぬしかないのです。悔しいです」
山内さんは、絞りだすような小さな声で、そう言う。
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