(中国編・最終話)喧嘩ができるほど仲がいい関係

 毎回、「東京-北京フォーラム」では常設の「メディア対話」や「政治対話」のほかに、環境や安全保障、歴史問題などその時に議論すべきテーマ別の分科会を設けている。かなり議論が白熱するのは、この常設対話の「メディア対話」と「政治対話」である。
 「メディア対話」には、日中の世論調査を材料に両国のメディア幹部や有識者が参加する。お互いの国の報道に関する考え方の違いがここの議論で激突する。たとえば、中国では報道に自由がない、という日本側の問いかけに、中国側は日本には報道の自由があるというが、作っている新聞の一面はどこも同じではないか、と反論する、という具合である。

 私も毎回、この分科会には出席するがいつもはらはらするのは、両国のメディアが主張を譲らず平行線になり、喧嘩に近いことも起こるからである。二回目の東京でのメディア対話ではこんな議論もあった。
 このセッションに参加した日本側の実行委員長でもある小林陽太郎氏が、05年の反日暴動を例に出しメディアの独立性に関する問いかけをしたのである。
 「この時に中国政府として謝罪があってもいいのでは、という記事を書いたメディアは中国であったのでしょうか」。
 中国側から直接の回答は最後までなかった。が、範士明北京大学国際関係学院助教授がこう政府批判を行ったのだ。「対日デモとそれが暴徒化したことは分けて考えるべきだし、その点でのメディア管理では政府のやり方に問題があったと感じています。特に外交部のスポークスマンが謝罪しなかったことが問題でした」。

 昨年、北京大学で行われた第三回目の「政治対話」では、日本の中国研究者まで驚くような議論が飛び出した。
 中国人大学生が「日本はODAでも中国に多大の援助をしていた。なぜ中国政府は日本の常任理事国入りに反対するのか」と会場から質問をし、出席した中国側の政治家が答えに窮する場面があったのである。このやり取りはインターネットで中継されていた。
 日中の民間対話はまだ始まったばかりである。ただ私には一歩一歩ではあるが、確実に当初の目的に向かって動き出しているように思える。「喧嘩ができるほど仲がいい関係」は、本音の議論のこうした積み重ねからでしか生まれない、と思うからである。

戴秉国氏と 2007.8.28 第3回北京−東京フォーラムにて
 ダイナミックに経済発展を続ける中国は、世界のパラダイムを変えるくらいの大きな影響力を持ち始めている。強大な国でしかも体制も異なる国との対話は国家だけが主導するのでなく、民間も担うべきものだと私は考えている。
 議論が国家の利益を代弁するだけのものなら、国家の競争でしか、アジアの未来は描けないだろう。そうではなく、民や市民の強い関係がこれからのアジアには必要だし、日中やアジアの共通の利益や新しい価値観はそうした強い民間の交流からこそ生まれると、思うのである。

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