アップルはちょうどその頃、後にiTunesとなるテクノロジーも買収していた。そして、およそ1年足らずで開発を行い発表したのが、インターネットとデバイスとコンピュータをつなぎ、音楽をデジタル時代ならではのスタイルで体験するというビジョンだった。ボタンではなく、トラックパッドという丸い表面を指でなでて操作するiPodも人々を熱狂させた。
このiPodが、その後iPhone、iPadと続くアップルのイノベーションの大きな原動力となったことは言うまでもない。アップルが、パーソナル・コンピュータ以外の領域に足を踏み入れたきっかけを作ったのも、このiPodだった。
iPodの次は、サーモスタット?
ファデルは、アップルで18世代のiPodと3世代のiPhoneの開発を率いた。そして2008年、同社で上級副社長にまで昇進していたが、辞職。1年ほどの休みを取った後、2010年に創設したのが、ネスト・ラボという新興企業だ。
ネスト・ラボは、現在すでに「ネスト」という製品を市場に出している。ネストはサーモスタット(温度を一定の範囲に保つための自動温度調節装置)である。
iPod、iPhoneという世界を変える製品を生み出したファデルが、サーモスタット? と思うだろう。だが、このネストはただのサーモスタットではない。
最新テクノロジーを結集し、人の気配を感じ取り、生活のリズムを覚えて、最もエネルギー効率のいい方法で室内の温度を調整する。いわばコンピュータ並みの頭脳を持ったサーモスタットなのである。
もちろん、デザインはシンプルでスマートだ。薄く美しい円形のサーモスタットは、壁に取り付けられると、アート・オブジェのようにすら見える。温度設定は、サーモスタットを包む外側のステンレスのリングを回転させるだけでいい。
それだけではない。ネストは節電モードの設定も楽しくさせてくれる。リングを右や左に回転させると、あるところで「葉っぱマーク」が表示され、それが寒さや熱さを感じずに、なおかつ節電ができる温度であることを教えてくれるのだ。
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