協和発酵買収でキリン格下げのナゼ
キリンHDは協和発酵を買収する。しかしS&Pなどが格下げを発表、株式市場も冷ややかだ。(『週刊東洋経済』11月3日号より)
キリンホールディングスは協和発酵工業を買収すると発表した。1673億円を投じ、12月6日までに協和発酵株を1株1500円で約28%まで公開買い付けする。来年4月に医薬子会社のキリンファーマと協和発酵が株式交換を行うと、キリンHDの持ち株比率は50%超となる。協和とキリンファーマは統合を進め、来年10月に新会社「協和発酵キリン」が発足するスケジュールだ。
会見で協和発酵の松田譲社長は「キリンとの資本提携はあうんの呼吸で決まった。世界に通用する抗体医薬のスペシャリティファーマを作る」とアピール。キリンHDの加藤壹康社長も「酒類、飲料に次ぐ第3の柱として医薬を成長させる。協和発酵はベストパートナー」と力説した。
ビール立て直しが先決
今回の資本提携の目玉となる抗体医薬は副作用が少ないなどの特徴があり、実用化は10年以上先ともいわれる。それでも「手薄だったMR(医薬情報担当者)が1400人体制となり、営業力はかなり強化できる」(浅野克彦キリンファーマ社長)というメリットはあり、新会社は2011年度までに利益で130億円の相乗効果を見込む。
が、そうした一方で、ムーディーズとスタンダード&プアーズはキリンHDを格下げの方向で見直し中だ。「新薬開発には多額の費用と時間がかかり、収益貢献への不確実性が高い」(S&P)。株式市場の反応も冷ややかだ。みずほ証券の佐治広アナリストは「なぜこのタイミングで医薬の大型買収なのか。主力のビール・飲料で短期的な業績回復に向けたメドをつけてほしい」と指摘する。
キリンは今期、原料高にあえぎ、新製品を中心にビールの販売も苦戦中。また、今年7月に豪飲料大手ナショナルフーズと買収協議中と発表し、海外事業の本格化が期待されたが、遅々として交渉は進まない。このため10年後に向けた“種まき”買収を評価する前に、足元のビール・飲料事業の立て直しを求める声ばかりが目立つ。
キリンHDの加藤社長は「15年度の売上高3兆円(昨年12月期1・6兆円)に向け、有力な買収案件を追求していく」と引き続きM&Aに意欲を見せる。次は国内外の酒類・飲料へと触手を伸ばす可能性が高そうだ。
(書き手:前田佳子 撮影:吉野純治)
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