電通過労自殺問題、本質はどこにあるのか 残業規制を改革の俎上に載せるべき

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近年、政府は労働関連法を改正し、労働時間の短縮を奨励しているが、このような措置をめぐっては、自主規制にあまりに頼り過ぎているとの批判も上がっている。

「長時間労働が、若い雇用者の能力形成に必要だという意識の問題がある」と、みずほ総合研究所の主任研究員である大嶋寧子氏は指摘。「人件費が90年代から合理化されてきたので、1人当たりの負担が拡大してきた」と同氏は語る。

生きがい

電通が長時間労働で責任を問われたのは、高橋さんのケースが初めてではない。

最高裁は2000年、電通社員が長時間労働からうつ病となり、1991年に自殺したのは同社に責任があるとの判断を下した。

電通の石井直社長は、10月17日に社員に送った電子メールのなかで、高橋さんの自殺を受け、同社が刑事訴追を受ける可能性に直面していると説明。ロイターが入手したメールのコピーによると、同社は残業の上限時間を月70時間から65時間に引き下げるとしている。

電通はロイターに対して当局と協力していると述べ、それ以上のコメントは差し控えた。

高橋さんの遺族側弁護士は、電通を告訴するかどうかについてコメントしなかった。また、遺族は取材要請を拒否した。

高橋さんの死によって、過労死と職場における嫌がらせという難しい問題に再び注目が集まっている一方で、政策立案者は労働に関する他の課題に対処しようとしている。

東京大学を卒業し、就職してから数カ月後、高橋さんは自身の外見を男性上司からけなされること、睡眠時間がわずか2、3時間であること、日常的に週末も働いていることなどについて、ツイッターでつぶやき始めていた。

「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」(原文ママ)と 昨年12月17日、高橋さんはツイッターでこう記している。

クリスマスの12月25日、高橋さんは社員寮から飛び降りた。

「娘は二度と戻ってこない」。高橋さんの母親の言葉を国内メディアが先月報じた。「命より大切な仕事はない。過労死が繰り返されないよう強く希望する」

(Stanley White記者、笠井哲平記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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