民主政下の「一君万民」はポピュリズムに堕すのか
事実、木村幹『韓国現代史 大統領たちの栄光と蹉跌』は、前代の李明博(イミョンバク)氏が就任するまでの各大統領の人生から描く戦後史だが、民主化以降の描写は近年の日本と対照しても示唆が深い。
根深い地域ごとの党派対立を克服し、インターネットを駆使して特定の派閥によらない国民統合を模索したのは、前々代の盧武鉉(ノムヒョン)大統領。
自身の支持者で固めた新党で臨み、守旧派議員を放逐して圧勝した2004年の国会議員選挙は、小泉純一郎首相の郵政解散に一年以上先行する。むろん、安倍首相や橋下市長がSNSを始める遥か前だ。
もっとも、その後の盧武鉉政権の急速な失墜を、木村氏は「改革」すれば必ず社会の進歩につながるという国民の期待と、政治の力で起こせる変化はすでに尽きていた同国の現実との、落差に求める。
そもそも一君万民とはポピュリズムの異名でもあり、大院君も民衆へのバラマキのツケとして悪貨鋳造によるインフレを招いたとは、趙氏の著書にも見える。過度な改革幻想や成長神話に基づく、民衆側の統治者への無批判な一体化を戒める上で、わが国にとっても益するところの多い挿話だろう。
むろん、史実の解釈は多様であっていい。しかしいたずらに自国の栄光を誇り、他国の失敗をあげつらう関係は虚しいだけだ。
これまでも、これからも多くの課題を共有する両国であればこそ、互いに相手の経験を鏡とするような、成熟した歴史の語りを持ちたいものである。
【初出:2013.6.8「週刊東洋経済(マンション時限爆弾)」】
(担当者通信欄)
橋下徹大阪市長の発言から、従軍慰安婦問題が連日大きく取り上げられていたことも含め、近年の日韓関係には常に歴史問題という緊張が存在してきました。ここで、現在の歴史問題の原因が起こる前、併合以前の韓国に目を向けることが、また違った視点を持つことに繋がります。
本文中に取り上げられた書籍、『韓国現代史 大統領たちの栄光と蹉跌』『近代朝鮮と日本』『したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る』はどれも現代の日韓関係を考えていくうえでの示唆に富む本です。こちらもぜひあわせて!
さて、與那覇潤先生の「歴史になる一歩手前」最新記事は2013年7月1日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、エリート教育とお金)」に掲載!
【憲法の「正しい」変え方とは 世界史から見た人権の歩み】
今月はいよいよ、参議院選挙です。ネット選挙解禁後初の選挙ということで、候補者、現職政治家のインターネット利用が注目されますが、この選挙の前にまず考えておくべきこととして、憲法改正問題があります。日本の憲法観とはどのようなものか、西洋に「人権」が宣言されるにあたっての文化の役割とは何か。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら