何気ない株取引でも抵触! インサイダー取引に要注意
インターネットや携帯電話を使って簡単に取引ができるようになったこともあり、株式投資はビジネスマンにとって身近な資産形成の手段になりつつある。ただ、そこには思わぬ落とし穴も潜む。インサイダー取引のリスクだ。
4月に発覚した野村証券の元社員(事件を受けて解雇)が起こしたインサイダー取引事件。M&A(企業の合併・買収)仲介の実務担当者が、その情報を基に株式を売買して不正な利益を得た行為は、証券界トップの野村の信頼を著しく失墜させた。
上場会社の株価に影響を与える可能性のある重要な情報を、一般投資家よりも有利な立場で公表前に入手した者(インサイダー)が、その会社の株を売買する--。金融商品取引法(旧証券取引法)違反のインサイダー取引は、懲役や罰金などの刑事罰や行政処分である課徴金などの対象となる不法行為だ。
インサイダー取引をめぐっては、NHK記者や新日本監査法人の元所属会計士、有価証券報告書など情報開示文書の印刷を手掛ける宝印刷の社員といった、日常的に上場会社の重要情報に触れる立場の人間が、今年相次いで行政当局に摘発された。金融の強化を目指す日本にとって、市場の健全性は生命線。インサイダー取引に対する当局の監視姿勢は強まっている。
一方、インサイダー取引は、何もそうした特別な仕事に就くビジネスマンだけの問題ではない。上場企業約4000社に勤務する役員・社員は約430万人(単体ベース)に上るが、彼らが自分の会社の株式を買う際は、つねにインサイダー取引のリスクがつきまとう。たとえば、自社の画期的な新製品の情報を知った社員が、それに期待して新製品発表前に自社株を買うと、インサイダー取引に該当するおそれがある。
意外と幅広い対象者、未然防止求められる企業
インサイダー取引の対象になるのは「会社関係者」と「情報受領者」だ。提携・合併や決算情報、不祥事など未公表の重要事実について、当事者となるのが会社関係者。その会社関係者から話を聞くと情報受領者となる。
会社関係者には、その会社や親会社の役員・社員のほか、大株主や顧問弁護士、公認会計士、証券会社の社員、さらには重要事実について契約関係のある取引先の社員、監督官庁の公務員なども含まれる。
会社関係者の家族や知人・友人は情報受領者となる。したがって、上場会社の役員・社員でなくても、彼らからインサイダー情報を聞けば処罰の対象になるのだ。見落としがちなのは、たとえば報道機関の記者のように職務の一環で重要情報を入手した場合、同じ会社の同僚も情報受領者と見なされる点だ。インサイダー取引の対象者は、実は広範囲にわたるのだ。