「トランプ大統領」で円ドル相場はどう進むか 新大統領の顔色をうかがう未曾有のゲームに

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なお、通貨・金融政策の陰に隠れて財政政策は注目されにくいが、トランプ氏は財源の当てのない大型減税を志向していることでも知られている。度が過ぎれば、米国債の格下げリスクひいてはドル安リスクが連想されやすくなるだろう。

また、通商政策では環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の破棄やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直し(極端なケースでは脱退)といった論点が目につく。米国がそうした立ち回りを演じることが世界の保護主義化の起点となるという文脈で捉えるべき事案だが、当然、米国に拠点を構える多国籍企業に打撃を与える話にもなる。そのような行為が米国の実体経済に対してポジティブな影響をもたらすとは思えず、結局はFRBの利上げ路線を挫折させる遠因となる。つまり、これもドル安材料である。

結局、あらゆる政策でクローズドな姿勢を貫き、「米国第一」を掲げる限り、トランプ大統領の政策運営はどこを切ってもドル安が連想されやすいのである(財政拡大からの米金利上昇でドル高という声もあるが、可能性は高いものではない)。

ドル相場の調整余地は大きい

そもそも、誰が大統領になろうと、足もと以上のドル高は容認し難いという事実は変わりようがない、というのが筆者の基本認識である。というのも、2014年6月以降、過去2年半で見られたドル相場の急騰に関し、2016年はほとんど調整が進まずに終わりそうである。つまり、新大統領はドル相場の水準が高いまま着任することになるのである。大統領が替わったからと言って、為替相場を評価する時間軸まで非連続的なものにすべきではなく、あくまで従前の動きからの接続性を重視したい。

日本人の目から見れば、今年は大きくドル安が進んだように感じるかもしれないが、実はドルは対円でこそ下落したが、その他通貨に対してはそれほどでもない。例えば、今年1月から9月までの間に円は対ドルで16.2%も上昇したが、ドル相場全体の動きを示す名目実効為替相場(NEER、多通貨との相対的な関係を示すドル相場)は同期間に2.7%しか下落していない。

実効相場の構成に関する細かな計算結果を解説することはここでは控えるが、円が対ドルで上昇した分は、英ポンドや人民元、メキシコペソといった通貨が対ドルで下落した分で完全に相殺されてしまったのである。それでもドルのNEERが全体として下落したのは円の他にカナダドルやユーロなども対ドルで相応に上昇したためだが、過去2年半の急騰と比較すれば、2017年に調整余地を残してしまったというのが筆者の抱く印象である。

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