「トランプ大統領」で円ドル相場はどう進むか 新大統領の顔色をうかがう未曾有のゲームに

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大統領選挙とドル円相場というテーマで頻繁に言及されるのが、「大統領選挙の年とその翌年は円安になることが多い」という経験則、いわゆるアノマリー(編集部注:従来の理論では説明できないが、経験則的に説明できる市場変動の法則)である。

トランプ大統領が誕生した今、そのような陳腐な議論に大きな意味があるとは思わないが、気になる読者も多いと思われるため、念のため紹介しておきたい。

1980年以降、大統領選挙は過去8回あるが、選挙の年は8回中5回(1984年・1988年・1996年・2000年・2012年)が円安、その翌年(即ち新大統領の就任1年目)は8回中6回(1988年・1996年・2000年・2004年・2008年・2012年)が円安であり、確かに円安になりやすいという印象はある。

得てしてアノマリーと呼ばれる事象に合理的な根拠はないが、こうした大統領選挙に絡んだ円安ドル高に全く根拠がないわけではない。特に、大統領選挙の翌年に円安ドル高になりやすい背景には、新大統領の下での経済政策が景気刺激型に傾斜しやすく、それゆえに金利先高観と共にドルが買われやすくなるという側面があるのだろう。

トランプ大統領の顔色をうかがうゲームに

そうした事実関係が今回も成立する可能性がないわけではない。勝利したとはいえ、低支持率での船出が見込まれるトランプ大統領が再選を経て2期8年を全うするには、1期目の早い段階で実績(レガシー)を作り、「やりたいことをやれる」環境を醸成する必要があるからだ。

最も分かりやすい実績が景気下支えであることは言うまでもなく、実体経済のスタートダッシュには相当配慮するものと思われる。この点、既に知られているように、トランプ氏は積極財政を打ち込むことを言明しており、ほかの条件が一定ならば、これは実体経済の押し上げに効いてくる。堅調な実体経済を理由に利上げを主張しているFRBからすれば「渡りに船」であり、利上げの確度が上がると共にドルが上昇する可能性はなくはない。

しかし、トランプ氏は選挙戦の最中で明示的にドル高を忌避する発言を繰り返している。そればかりか、ドル高の原因であり利上げ路線を推し進めてきたイエレンFRB議長を更迭する意思まで明かしたことがある(これについては、その良しあしは別にして、ドル高について他国の通貨安を批判するよりもFRBを批判するほうがよほど本質を突いているのは確かだ)。基軸通貨国である米国の大統領が為替相場の方向感に言及すること自体、異例中の異例だが、トランプ大統領ならばその可能性も排除し得ない。

米国の通貨・金融政策の意向が絶対的な影響力を持つ変動為替相場制という舞台において、そうしたトランプ大統領の姿勢は未曾有の脅威と考えざるを得ない。言い換えれば、トランプ大統領の言動次第では、為替予想は各種ファンダメンタルズを分析するのではなく、単に同氏の顔色をうかがうゲームになりかねないだろう。この点は大統領候補が「現職大統領」に替わったことでトランプ氏が少しでも"大人の対応"に傾斜することを願うしかない。

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