北海道庁は「JR在来線」を守る気があるのか 「観光列車による活性化」はピンぼけだ

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実際、北海道が作成した「北海道交通ネットワーク総合ビジョン」を見ても、新幹線以外のJR線について具体的な施策は何もない。ちほく高原鉄道線廃止から10年、JR北海道のローカル線にも同じ問題があることは分かり切っていたのに放置してきた。それが今回の事態を招いた。現在、JRへ集まる批判の矛先は、やがて役所や政治家へ向けられることになろう。

道内では、国の全面的なバックアップを期待する声が根強い。国交省に陳情する自治体も現れた。ただ、北海道運輸局長は、今年8月の地域公共交通検討会議で、国への安易な支援要望に釘を刺した。北海道の特殊事情を主張するなら、地元がどのような努力をするのか他地域の国民へ提案する必要がある、と指摘している。

道や地元に当事者意識はあるか?

夕張市は他に先駆けて石勝線夕張支線の廃止に合意し、JR北海道と共に新しい公共交通ネットワークの整備について検討を始めた(筆者撮影)

一方、「道は頼りにならない」と割り切ったのか、独自に動き出した自治体もある。廃止が決まってから議論していては遅いとの判断もあろう。

夕張市は石勝線夕張支線のバス転換を早期に容認し、将来を見据えた地域交通を構築すべくJRと議論を始めた。豊浦町は室蘭本線小幌駅を観光資源とすべく維持管理費500万円を町で負担し、美深町は町内に特急バスの停留所を誘致すべく3000万円のバス購入費に補助を出した。

地元の反応は意外と醒めている。1980年代のような熱心な「乗って残そう」運動は見られない。地域の人たちが鉄道を実際に利用することがなくなったのが大きい。

それでも、通学の高校生やマイカーを持たない高齢者の足を確保する必要はある。住民は鉄道駅の近くに住んでいるとは限らないし、ならば別な輸送手段で代替することも可能だ。地域の公共交通機関を確保することが最優先課題なのに、「鉄道を残すべき」との理念が先行して現実との間に大きなギャップが生じている。議論が混乱する最大の問題がそこにある。

今後、国は北海道の公共交通機関を維持するためにどのような支援プログラムを構築するつもりなのか。道や地元は当事者意識を持って参加するつもりがあるのか。JRだけでなく、役所の動向もきちんと検証していく必要があるだろう。 

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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