「金融市場の混乱防止へ IMFが果たすべき役割」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ
為替問題の解決に向けて新しい措置が求められる
アメリカ経済は現在、穏やかな減速局面にある。しかし、もし前述したサブプライムローンなどの問題が長引けば、さらに深刻な経済危機を招く危険性がある。経済危機が巻き起これば、FRB(連邦準備制度理事会)はさらなる金利引き下げを迫られるだろう。利下げによってドルの魅力も薄れていくはずだ。また、貿易収支も急激に悪化し、ドルにはさらに大きな圧力が加わるだろう。私の計算では、アメリカの貿易赤字を半減させるには、ドルの実効相場は20%下落しなければならない。
ただ、そうしたドルの全面安が起こっても、対処は可能である。だが新興国市場がユーロに対してだけ、その調整の負担を負うように要求すれば、その結果は壊滅的なものになるはずだ。ユーロの対ドル相場が1ドル50セントから60セント、あるいはそれ以上に上昇して、貿易に深刻な影響をもたらすからだ。
アメリカ議会は、為替操作をしている中国などを対象とする報復法案を提出している。民主党の候補者たちも、こうした法案を支持している。IMFも、不当な為替操作をしている国に対しては、何らかの措置が必要だと考えている。
では、IMFのストロスカーン専務理事は、自らの権限行使によって、危機を回避することができるだろうか。IMFは今、その使命と正当性に疑問が投げられており、深刻な危機に直面している。
だからこそ為替問題を解決するには、今が絶好のチャンスである。各国の財務相がバーナンキFRB議長やトリシェ欧州中央銀行総裁に経済救済を求め、ドルとユーロの利下げを迫っても、不幸な結末を招くだけだ。仮に為替問題の行き詰まりに不満を抱くヨーロッパの財務大臣たちが、長期的な成長ではなく、短期的な需要刺激を目的として財政政策を受け入れてしまえば、事態はさらに悪化するだろう。
この数年、各国の財務相と中央銀行総裁は、自分たちがどれだけ貢献したかはさておき、IMF総会で世界経済の急速な成長を祝福し合うほどの余裕があった。しかし、実際のところ経済成長の貢献者は、彼らではなく、グローバル化の進展と中国の成長であった。本稿を執筆している時点ではまだ会議は終わっていないが、今回はこれまでと違った対処が求められているのだ。
(編集部注:IMF総会は10月22日に閉幕した。サブプライムローン問題を教訓に、金融市場の混乱防止に向けて、加盟国が協力し合うことを確認した)
ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001年~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。
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