「金融市場の混乱防止へ IMFが果たすべき役割」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ
2007年10月20日、ワシントンでIMF(国際通貨基金)・世界銀行総会が開催される(注:原稿執筆時は10月上旬)。これを機に各国財務相と中央銀行総裁が一堂に会し、G7などの会議が開かれる。
世界経済は現在、重大な局面を迎えている。サブプライムローン問題により、住宅バブルの天井が世界各国で崩れ始め、アメリカやスペインなど世界各国で住宅市場が凍り付いている。これにより、ヨーロッパの短期金融市場をはじめ世界の金融市場が、軒並み深刻な信用収縮に見舞われた。
一方、多くの国では史上最高値がついた食糧価格とエネルギー価格、中国の労働者の急激な賃金上昇などが重なり、インフレ率が押し上げられている。アメリカではさらに、ここに来て生産性の向上が減速しており、インフレ抑制効果が小さくなってきている。
このような信用収縮や物価上昇圧力の高まりにより、各国中央銀行がもくろむ“ゴールディロックス経済”(=インフレのない適度な景気拡大)は実現困難となってきている。もし、このままドル相場の下落が続けば、中央銀行はどう対処するのだろうか。為替相場の予測は極めて困難だが、アメリカの巨額な貿易赤字の縮小が難しいことを考慮に入れると、ドルが長期的な下落傾向にあることは間違いないだろう。
こうした中、為替市場では、ドルを買い支えることでドル下落を阻止しようという動きが、アジア諸国や新興国の中で見られる。このような動きによって、相場が弾力的に動くユーロやカナダドルといった通貨にも、不当な上昇圧力がかかり、その為替相場は史上最高値を記録している。
ヨーロッパの各国指導者は、アメリカがアジア諸国や産油諸国との間で負っている膨大な貿易赤字を、自分たちが肩代わりしていると主張している。これは正当な批判である。もしアメリカ経済が不景気になれば、アメリカに対する批判はさらに強まるはずである。
IMFは4月の総会で、こうした為替問題の仲裁を行おうとしたが、具体的な結論を出すには至らなかった。今回のIMF総会と時を同じくして、中国では共産党大会も開催される。だが、話が具体的に煮詰まることはないかもしれない。
サウジアラビアやアルゼンチン、ロシアといった国では、明らかにインフレ圧力が高まっている。中国でも物価が急騰していることを考慮すると、今こそ金融市場の混乱防止に向け、各国が合意に達すべき時期ではないだろうか。