熊本地震で阻まれる、農業の「6次産業化」 インフラ回復途上で奮闘する阿蘇の今

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借地中心の水田は、多くが復旧によって栽培可能だった。ところが、国土交通省が橋建設のための用地として、急遽借り上げることになり、作付けできる水田は7割も減る見通しとなる。地域の復旧の大切さや地主との関係を考えれば、行政に対する文句は飲み込むほかない。

加工品の在庫がある2017年2月までは、12人の従業員を減らさずに復旧を急ぐが、その後の経営は見通しが立たない。うち数人を知り合いの農業法人に出向させることも考えている。収益性の高いイチゴ加工品の製造販売と観光イチゴ園の再開が当分期待できない以上、経営の一部を移転して再出発を図るのも選択肢の一つだと考えている。

道路と鉄道網のアクセス改善を

農業の6次産業化とは、1次産業である農業を、加工などの2次産業、サービスや販売という3次産業まで含め、一体化することで、売上高や利益を拡大しようというもの。農林水産省によると、農業関係の6次産業化の市場規模は、加工・直売で約1.8兆円、従事者で約38万人に達する(2014年度)。熊本県は年間の観光客数が約5800万人、阿蘇地方だけで3割を占めている。「増える観光客向けの需要に対応し、阿蘇では6次産業化に取り組む農家が増えていた」(農林中央金庫熊本支店)だけに、震災でブレーキが掛かることを懸念している。

熊本県としては「修学旅行や海外旅行客の回復をめざし、韓国などからの旅行業界、メディア視察ツアーの実施や各地の旅行展示会で、阿蘇の観光の安全さや魅力を訴えている」(観光課)。また、国とも連携し、旅行客数の底上げにつながる復興割引制度の活用なども広げてきたという。

阿蘇の農業の6次産業化で関係者すべてが一致して強調したのは、九州の真ん中を東西に横断する道路と鉄道網の回復だ。復旧工事のスピードを上げるのにも、観光客が戻るのにも、アクセス改善がかぎを握る。地震の混乱は平地を中心に表面上は回復に向かいつつあるが、見えにくいところで農家の体力は低下したままだ。農業の6次産業化が再び輝きを取り戻すため、一刻も早い支援が求められている。 

山田 優 農業ジャーナリスト

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やまだ まさる / Masaru Yamada

日本農業新聞を経て、農業ジャーナリスト。

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