熊本地震で阻まれる、農業の「6次産業化」 インフラ回復途上で奮闘する阿蘇の今

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熊本地震後も懸命に生き残ろうとする農業従事者たち。阿部牧場の阿部寛樹社長は、ブランド維持の戦略に苦慮する(筆者撮影)

熊本県阿蘇地方。

年間約1600万人が観光に訪れ、全国でも有数の6次産業化の先進地だったが、今年4月に起こった熊本地震で事態は一変した。直売所の移転や販路の開拓、行政や企業の支援を活用など知恵を凝らしながら、農家は生き残りに全力を挙げる。

作物の生産にとどまらず、風土や伝統を生かし、農産加工や直売、観光と結び付ける「農業の6次産業化」は、全国各地で取り組まれている。

野菜の直販で再建に成功したが・・・

「この先にある『萌の里』の周りは、例年通りコスモスの花がいっぱいだが、観光客は一人もいないよ」。

熊本県西原村の直売施設「萌の里」の大谷光明社長(78)は、この8月末にオープンしたプレハブ仮設店舗の前で語り出した。阿蘇の外輪にある本施設から、わずか4キロメートル、熊本市側にある。しかし、間を結ぶ県道28号線は、ズタズタに寸断されたままだ。熊本市内や空港からたまに訪れる観光客は、手早く商品を買うと来た道を引き返す。阿蘇の壮大な草地に囲まれた本施設のように、家族連れがコスモスの中でゆったりと滞在を楽しむ姿は見られない。

萌の里は20年前、村の第3セクターとして発足。その後、経営に行き詰まった施設を、地元住民自らが1口5万円を出資して買い取り、時間をかけて再建した。年間約100万人が訪れ、売上高は4億3000万円に達している。

小規模農家が多いこの地域では、野菜を卸売市場に出荷しても、十分な収益を上げることは難しい。萌の里ができたことで、消費者に直接販売できるルートを確保し、さらに加工を手がけた農家は売上高を増やしていった。施設の直売や加工施設では、安定した雇用の場も提供。絵に描いたような6次産業化の成功例だったのである。

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