熊本地震で阻まれる、農業の「6次産業化」 インフラ回復途上で奮闘する阿蘇の今

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萌の里の大谷光明社長は8月に仮設の直売所を開設。しかし、売り上げは5分の1にとどまる

だが、状況は一変した。4月の熊本地震で、施設そのものはほとんど被害がなかった。ただし、アクセスが絶たれたことは、観光地の直売所にとって致命的だった。野菜や漬け物、餅菓子、乳製品を出荷していた150の農家は、大切な売り先をほぼ一夜にして失うことになる。

「仮設店舗は始まったが、売上高は前年の5分の1まで落ちた。従業員も3分の2はやむを得ず解雇した」。そう語る大谷社長の表情からは、無念の気持ちがにじみ出ていた。

修正迫られた酪農ビジネス

阿蘇市でこだわりの牛乳「ASO MILK」を製造販売する、阿部牧場の阿部寛樹社長(39)は、地震によって目指してきた酪農ビジネスモデルの修正を迫られている。食品の味を審査する国際賞を受賞するなど牛乳やヨーグルトの品質が高いのが自慢ながら、経営の軸足は高いブランド価値を背景にした業務用需要に置いてきた。利益率の高いソフトクリームやジェラートの原料を、地元の観光土産店などに販売するのが柱だ。阿蘇以外に製品を販売し過ぎることで、ブランドが拡散することを強く警戒する。阿蘇に行かないと味わえないイメージを大切にしているからだ。

それが熊本地震による阿蘇の観光業打撃で前提が崩れた。

停電や断水など地震直後の混乱は大きかったが、対応は素早かった。自力で1キロメートル以上先の湧き水からパイプで飲用水を引き込んだり、被災状況をテレビで訴えて地域の農家で作る「阿蘇復興支援セット」を全国に販売したりした。牧場の搾乳や乳製品加工はおおむね軌道に乗った。ゴールデンウイーク商戦は逃したものの、6月以降は前年並みかそれ以上の売上高に持ち直している。関西などで企業の社会貢献(CSR)を訴え、社員向けの宅配を組織し、一時期にとどまらない安定した販路を確保した。阿蘇の復旧のシンボルにも見える。

阿蘇市商工会の井上孝彦課長は、70社の製造業者すべてに復旧を説得した

とはいえ、売上高の多くを消費者向けの牛乳やヨーグルトが占めるため、業務用が主力である阿部牧場全体の収益性は低下している。「ブランドを守るため、本当は阿蘇の中に製品をとどめておきたい。阿蘇の観光が復活しない限り、難しいことも分かっている」と阿部社長は説明する。

一方、阿蘇市商工会の井上孝彦総務課長(56)は、熊本地震で心が折れそうになった事業主を訪ねては励ましてきた。

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