「ネットいじめエンタメ」が日本をダメにする 知性のない「正論」で誰かを攻撃しても不毛だ

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「正論」には、誰もかなわない。誰が聞いても正しいことを言っている人を、取り締まることはできないからだ。ゲーム感覚で人をおとしめようという彼らだが、残念ながら主張だけ聞くとまっとうといえる。「不倫はいけないことですよね?」と言われてしまえば、誰も何も言い返せない。

しかし、考えてみて欲しい。バッシングのための「正論」なんかには、何の価値もない。新たな価値創造をしているわけでもなく、ただ誰もが知っているルールを、我が物顔で言っているだけだ。

最近は、資生堂インテグレートのCMで「25歳からは女の子じゃない」という表現が「女性差別、セクハラ」との批判を浴びた。女性からの批判はまっとうで、悪意の「正論テロ」とは違うように思えるかもしれないが、この中には「正論テロリスト」が間違いなく紛れ込んでいる。彼らは、何でもかんでもケチをつけて、一流企業が慌てふためく姿に快感を覚えているだけなのだ。結果的にこのCMは放送休止に追いやられた。

「正論信仰」がすべてをつまらなくする

「正論テロ」は、「凡人」が努力もせずに、何者かになったという幻想に浸れる、コスパのよいエンタメなのだ。本来、「凡人」が何者かになるには、圧倒的努力と実績が必要だった。しかし、SNSがある今、スマホ片手に「正論テロ」を起こし、人気者をたたき落とすだけで手軽にそうした感覚が味わえる。

しかし、実際には何の価値も生み出さない行為であり、こんなものが蔓延している限り、この国はますますつまらなく、小さくなっていくだろう。だからこそ、まずは自らの信念を持って行動し、「正論テロ」なんかに惑わされない態度でいることが大切ではないだろうか。

日本では小さいころに親から、「みんな我慢しているのだから、あなたも我慢しなさい」と教えられ、インドでは「あなたも迷惑をかけるのだから、相手の迷惑も受け入れなさい」と教えられると聞いたことがある。日本人のモラルの高さは誇るべきところだが、それが行き過ぎると息苦しい監視社会のようになり、多様性が失われていくだろう。

「正しさ」の徹底は危険だ。なぜなら、そこからハミ出す他者を認めないからだ。自分が正しくあろうとするのは立派だが、それを人に押し付ようとした瞬間、暴力になる。戦争はどちらかが悪だから起こるのではない。お互いが自分の「正義」を主張し合った末に起こるのだ。われわれから見ればIS(イスラム国)は「悪」だが、イスラム国から観たら我々が「悪」であり、この戦いはどちらか一方を物理的に潰さない限り、答えは出ない。

誰もが自警団のようにパトロールし、悪事に目を光らせる社会では何も生み出さない。みなが揚げ足を取られないように、表通りを歩くのを避け、引きこもるようになる。しかし、社会を変えるのはいつだって、常識に囚われない変人である。「イノベーションが必要だ」というセリフはそこかしこで聞かれるが、まずは「正論」信仰をやめるべきではないだろうか。

箕輪 厚介 編集者

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みのわ こうすけ / Kosuke Minowa

大学卒業後、双葉社に入社。「ネオヒルズ・ジャパン」を創刊し完売。『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文などの編集を手がける。幻冬舎に入社後は新たな書籍レーベル「NewsPicks Book」を立ち上げ、編集長に就任。『多動力』堀江貴文、『日本再興戦略』落合陽一、2019年一番売れてるビジネス書『メモの魔力』前田裕二など次々とベストセラーに。自著『死ぬこと以外かすり傷』は14万部を突破。雑誌「サウナランド」は2021年のSaunner of the Yearを受賞。2022年『死なばもろとも』ガーシーを出版。2023年秋に著書『怪獣人間の手懐け方』(クロスメディア・パブリッシング)、『かすり傷も痛かった』(幻冬舎)を発売。

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