年間約10兆円!薬剤費の膨張を止められるか あの手この手で無駄をなくせ

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きっかけは14年。口腔疾患で入院した高齢の患者が、入院1週間後からふらつき、転倒、食欲低下、さらに意識障害を起こし、院内で亡くなった。この患者は、日常的に生活習慣病を中心に14種類の薬を飲んでいたが、入院後に抗菌薬も加わった。死因はある薬の中毒だと分かった。医師や薬剤師、看護師だけでなく、事務職員も参加して再発防止を図るチームができた。

ポリファーマシー外来では、週に2回、1人の患者に30分~1時間ほどかけて、じっくり話を聞く。1日に2人をみるのが精いっぱいだ。開設後1年間に受診した47人で、受診前の平均9種類を5種類に減らすことができた。全員で削減できた薬剤費は年間約900万円。1人当たり20万円近くに上る。最も多く削減できたのは睡眠薬だった。

ただ、入院中の規則正しい生活や減塩、カロリー計算された食事といった環境変化が、血圧や血糖値の正常化につながった面も考えられる。矢吹さんは、「生活習慣を整えれば、薬を減らせるという“成功体験”を積んでもらうことも有用」という。「退院後、環境や生活習慣が元に戻れば、元の薬が必要になるかもしれない」とも伝えるようにしているという。

多剤問題は、単純に薬剤費が膨らむだけでなく、多剤になることによって飲み残し(残薬)が増えるという側面もある。日本薬剤師会の推計によると、在宅の75歳以上の高齢者だけで、残薬は年間およそ475億円分に上る。

子どもの場合、多剤の長期化はまれだが、風邪などでせき止め、熱冷まし、鼻水止め、整腸剤、漢方、貼り薬、そして抗菌薬などと、一時的に薬が積み重なることがある。特に抗菌薬は、安易に使い過ぎると耐性菌が蔓延し、効く抗菌薬が将来的になくなる恐れがある。薬剤耐性菌は、先の主要7カ国(G7)保健相会合でも主要課題になったほどで、とりわけ、抗菌薬の使用が突出して多い日本は、適正使用が求められている。

今年度の診療報酬改定では、入院患者の内服薬を減少させる取り組みを評価する「薬剤総合評価調整加算」も新設されて、国も多剤の対策に本腰を入れ始めている。

ただし、患者の自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、病状の悪化につながる可能性もある。気軽に相談できるかかりつけ医やかかりつけ薬剤師を持っておくことが肝心だ。

薬剤費を減らすなら、量だけでなく値段にも注目する必要がある。

費用対効果の視点も

1年間使えば薬代が3500万円に達するがんの免疫療法薬「オプジーボ」など、高額の薬剤が最近、何かと世間をにぎわせている。このままではいけないと、薬や医療機器の価格を議論するときに「費用対効果」を考慮しよう、という取り組みが今年度から始まった。

基本的にメーカーと使う側の「交渉」と市場価格に基づいて決まる欧米諸国のやり方に対し、日本には薬価を決めるための「ルールブック」があるが、そこには「費用対効果」という観点は入っていなかった。

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