トクヤマ、2000億円投資はなぜ失敗したか? 横田社長が語る敗因の本質と再建への道筋

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――市況には期待できない?

横田浩(よこた ひろし)/トクヤマ代表取締役社長。1961年生まれ、55歳。1985年、北海道大学卒、徳山曹達(現トクヤマ)に入社。ファインケミカル等の営業部長を経て、2014年、特殊品部門長。2015年3月から現職(撮影:尾形文繁)

業界とした明らかなキャパオーバー(設備過剰)なので、これから先も市況は厳しいと思う。鉄鋼業界と構図は同じで、中国であまりに工場が増えすぎた。中国には競争力のない工場もたくさんあって、今はその多くが止まっているが、設備を廃棄したわけではなく、あくまで休止状態。いわばゾンビみたいな状況だ。需給が多少改善して市況が上がれば、そうしたゾンビ工場が次々に動き出して、再び需給が悪化する。

――マレーシア工場への累計投資額は2000億円を超えるが、今回、韓国企業との間で合意した売却額は100億円に過ぎない。この現実をどう受け止めているか。

複数の同業に譲渡を打診したが、太陽電池用シリコンのメーカーは市況低迷でどこも事業の赤字に苦しんでおり、交渉自体が非常に難しかった。もちろん、もっと高い値段で売りたいのはやまやまだが、事業を取り巻く環境を考えると、今回の合意条件で良しとすべきと判断した。

――9月下旬の譲渡会見では、「虚しさもある」と吐露した。

工場そのものの売却という形で、当社の最大の懸案事項に決着を付けることができた。その点では前向きに捉えている。ただ、マレーシア工場に費やしたおカネを、もし、別のいろんな事業で有効に使えていたらと思うと、非常に悔しいし、虚しさも感じている。

大きな目標数字にばかりとらわれた

――前経営陣が推し進めた巨額投資は無惨なまでに失敗し、会社の屋台骨をも揺るがした。今振り返って、問題の本質はどこにあったと考えるか。

当時、経営陣は100周年を迎える2017年度に売上高5000億円を達成するという大きな目標数字を掲げ、それを実現するための牽引役として、(需要が急増していた)太陽電池用シリコンの生産に巨額の設備投資を行った。しかし、売上高を短期間で大きく伸ばすことばかりにとらわれ、企業経営における肝心な部分の議論が不足していたと思う。

確かに当社は半導体用シリコンの世界大手だが、だからといって、太陽電池用もうまくいくと考えたのは安易すぎた。超高純度が要求される半導体用のシリコンと違って、太陽電池用は汎用品で技術的な参入障壁もさほど高くない。そんな汎用のビジネスで当社に優位性が本当にあるのかどうか。一番大事なその根本部分の議論が不十分なまま、突っ走ってしまった点に最大の問題がある。

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