焦げ付く「無担保融資」の惨状 融資事故と倒産多発で残高圧縮、手法見直しへ
巧妙化する融資引き出し 銀行の対応も後手後手に
ところが昨年10月末には、同行の今池支店(名古屋市)を舞台に、それをあざ笑うかのような事件も発覚した。税理士事務所の元職員が自称経営コンサルタントや債務超過に陥っていた印刷会社(廃業済み)社長らと結託。納税証明書に偽造印を押したうえ、決算数値を水増しして黒字経営を装い、900万円の融資を詐取していたのだ。元職員らは同様の手口で約20社に対する融資計4・5億円を同行から引き出していたという。まさにいたちごっこか。
自動審査融資ではコンピュータシステムに審査対象企業の財務データを入力して、デフォルト率を算出。そのランクに応じて融資可能金額や貸し出しレートの水準を決定する。ただ銀行側も「財務データ」のみに頼っていたわけではない。代表者が営業店に来店した際に、その資質などを素早く見極めるなど定性的情報の確保に努めるとともに、新規取引に際しては商業登記簿謄本や印鑑証明書の提出も求めていた。だが、最近の融資詐取事件ではこれらの書類も偽造されるなど「手口はますます巧妙化している」(事情通)。
それに商業登記簿の大半は現在、電子データ化されているが、提出されるのはほとんどが、現在事項証明書。履歴事項全部事項証明書、閉鎖事項全部証明書や、まして電子データ化される前の「閉鎖謄本」までを求めているわけではない。これではペーパーカンパニーかどうかのチェックも難しいことになる。
銀行関係者によれば登記簿で対象会社の履歴事項を確認すれば「大抵のことは読み取れる」(みずほ銀行幹部)という。役員欄でその交代状況をチェックし、直近になって役員がそっくり入れ替わっていたりすれば、融資を詐取するために休眠会社の登記が利用されている可能性が濃厚だ。代表者が実質的な経営者の家族や第三者などになっていれば、過去に倒産したことがあって、形式的に首をすげ替えている公算があり、危険信号の一つとみなされる。
さらに直近に会社の住所を移転していたり、住所が転々としていたりした場合も「悪意を疑ったほうが無難」(金融筋)とされている。
とはいえ、証明書や謄本を取得しようすれば印紙代が1通当たり1000円かかる。異なる法務局管内を会社住所が転々としていれば、時間と手間がかかり、迅速さが売りの自動審査融資が用をなさない。不良債権処理が進んで銀行の融資スタンスが積極姿勢に転じたここ3~4年は「無担保融資ばかりでなく通常の融資でも閉鎖謄本を取得しない例が増え、与信判断に甘さが生じている」(ベテラン行員)。
「08年3月期に入ってから金融機関の与信コストは全国的に膨張傾向にある」。日銀幹部は今、こう警告する。それを端的に示しているのが、これまで「絶好調」が喧伝されてきた東海地域。06年3月期、07年3月期といずれも0・2%以下にとどまっていた域内地銀の信用コスト率が、07年9月中間期には0・43%と2倍超にも上昇。要因は、建築基準法改正や原材料高・資材高などを背景とする中小・零細企業の倒産件数の増大だ。
帝国データバンクの倒産集計によれば、07年度における負債金額1000万円以上の企業倒産は1万1333件で、前年度比18・4%の大幅増加。統計対象が変更された05年度以降で最悪の水準を記録した。中でも負債1億円以下の企業倒産は6798件で同20・6%増え、原料高関連の倒産も299件と前年度から倍増。業種別では建設業の倒産が3053件と最も多く、同14・2%の増加となった。