焦げ付く「無担保融資」の惨状 融資事故と倒産多発で残高圧縮、手法見直しへ
こうした情勢に、関西地区の信用金庫関係者は「複数の情報関連会社などからスコアリングシステムの提供を受けてデフォルト率を試算してみたが、実勢とかなり乖離があり、振れも大きく、使いモノにならない」と嘆く。スコアリングモデルによるデフォルト率の算定は、過去の倒産統計をベースに大数の法則に則って行われる。足元で倒産件数が激増していれば与信判定に齟齬が生じてしまうということか。
メガバンクに後れを取ってはなるまじとの焦燥感と金融庁の"口車"にも乗せられて、地域金融機関も自動審査融資の拡大を競ってきた。07年3月期末の融資残高は信金・信組を含めて2兆4425億円。前期比7・1%減少したとはいえ、04年3月期末の実績からは2・24倍にも膨らんだ。
中でも人気を博していたのが十六銀行の「ベストパートナーズ」や池田銀行の「ニュービジネスローン」、滋賀銀行「ニュービジネスサポート資金」、北海道銀行「マインドウ」など。「業歴が浅い企業などでも気軽に融資に応じてくれる」(事情通)といった情報がネット上で駆け巡り、一部の銀行では「域外からも申し込みが殺到した」(融資ブローカー)とされる。だが、中小・零細企業の倒産増を受け、金融庁の推奨自粛を待つことなく、すでに融資圧縮・回収へと転じた地銀も少なくない。ある程度ボリュームを維持していく意向を示している地銀でも、「原則、第三者保証不要」などとしてきた融資手法を見直し、「信用保証協会の保証や公的金融を絡ませてリスク負担の軽減を図る方向に舵を切りつつある」(九州地区の地銀関係者)ようだ。図3のように有担ならば回収率は高い。
進む中小企業の業績悪化 ウミ噴出はこれから?
こうした中、「地域金融機関は新手法融資や多様な融資形態、さらには残高やレートを競い合うよりも、顧客企業別の採算管理手法を導入したり、精緻化するなど収益管理の手法を高度化することに経営資源を使うべきだ」と関係者は指摘する。
激しい市場競争が続く中、地銀の多くは「貸し出し業務で稼げなくても、デリバティブや為替の手数料、企業オーナー先への預かり資産販売などフィービジネスで採算確保ができればいい」として、多少甘い審査での融資や低レートでの融資にも応じているという。だが、非金利収入の採算管理への反映が十分でないうえ、経費率算定方法が精緻ではないことから、その顧客との取引が総合採算(資金利益+非金利利益 −経費 −信用コスト−資本コスト)でみて本当に黒字なのか赤字なのか判別しにくい状況になっているのが実情だ。
自動審査融資を筆頭に私募債引き受けやコベナンツ融資、あるいはこれらに代わってこのところ急拡大しているとされる動産・債権譲渡担保融資といった貸し出し形態の"奇をてらう"のではなく、製造業が原価計算を正確に行おうとしているように、顧客別採算管理を徹底して収益を確保していくことを最優先に考えろ、というわけだ。
「融資の現場はしょせん、ババ抜き」。あるメガバンク関係者はこううそぶく。スコアリングモデルに頼りきった無担保・無保証融資で不良債権の山を作って経営危機に陥り、400億円の追加税金投入を仰ぐ羽目になった新銀行東京。金融界では「三菱東京UFJ銀やみずほ銀で審査をはねられた企業が、(無担保融資に積極的だった)三井住友銀に転がり込み、その三井住友でもはじかれた企業が同行に転がり込んで、処理しきれないほどの劣悪な貸し出しを抱えた」とのウワサも飛び交う。
日用品や食料品の相次ぐ値上げによる個人消費の低迷も重なって08年度も高水準の企業倒産が続くと予想される中、無担保融資のウミが本格的に噴出してくるのは、むしろこれからかもしれない。
(ジャーナリスト 小山 守 =金融ビジネス)
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