どん底三菱を手に入れた日産ゴーンの「野望」 無慈悲のコストカッターが再び辣腕をふるう

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――燃費不正問題を引き起こした経営責任を問う声も根強いが、要請した側としてゴーン氏は批判の声にどう答えるのか。

ゴーン 益子さんは辞めるべきという人がいるのは理解できる。ただ企業にとってのオーナーは株主だ。これはあくまでビジネスですよ。株主の最大の利益からすれば益子さんは残るべき。それだけです。株主でない方々も含めてみんなに納得してもらうことが私の仕事ではない。CEOの評価は実績で決まる。これがいい決断だったと証明したい。

――両社の提携による相乗効果についてはどのように考えているか。

益子 まだ打ち合わせを始めたばかりだが、現在建設中のインドネシア新工場で来年10月から生産する新型MPV(多目的ワゴン)を日産にも供給し、東南アジア各国で販売する。生産台数が増えることでわれわれの収益性が上がる。物流費の低減や、両社の設備の有効活用も世界各国で検討が進んでいる。また、今後はルノーとも協議をしていく。得意分野が異なるので補完できる。彼らが強みを持つディーゼルエンジンを採用することも考えられる。

ゴーン プラグインハイブリッド(PHEV)に関しては三菱が技術を持っている。日産やルノーがそれをベースに独自に開発できる。三菱としても開発コストを抑えられる。構成部品を共有できれば、より良い価格条件でサプライヤーとも交渉できる。日産が強みを持つ自動運転やコネクテッドカーなどの技術に関しても、共有できる。シナジー効果の美しいところだ。

復活のカギは開発部門の建て直し

――相乗効果の一つに共同購買を挙げている。たとえば軽自動車を生産する三菱の水島製作所では、競争力の低いサプライヤーとの契約をやめることなどがあるのか。

ゴーン 競争力のないサプライヤーは、水島であれ、(日産の)追浜や栃木であれ、北米や欧州でも、われわれアライアンスとの取引を失う。トップレベルで競争するには必須のことだ。われわれの購買組織の利点は、最高のサプライヤーを採用できるということ。三菱のサプライヤーももちろん歓迎する。競争力のある会社には朗報だが、そうでない会社には朗報でないかもしれない。

――三菱にとって課題である開発部門はどう建て直していくのか。

ゴーン 益子さんからの最初の要請が、経験豊かなエンジニアに開発を統括してほしいということだった。研究開発部門で多くの改革を行わなければ、透明性は担保できない。燃費や排気の問題に取り組むことが最優先だ。

益子 今年6月に日産出身の山下(光彦・副社長、前・日産技術顧問)さんに来てもらって、開発現場で日産のノウハウを積極的に導入しており成果も上がってきている。(日産の組織活性化につながった)クロスファンクショナルチームの運用については、COOに就任予定のトレバー・マン氏がルノー・日産両社で経験豊富。彼の力を借りて三菱にとっての最適な形を考えたい。

また、山下さんには開発現場の工数管理の実態把握、意識改革、業務改革など、総合的に取り組んでもらっている。やはりどうしても人材不足の話は出てくる。最終的な報告を待って、日産に開発陣の派遣をお願いするか、外部人材を招くのかを決める。調査は今6~7合目。全体像が明らかになった時点でゴーンさんに相談する。

――日産はJリーグの「横浜F・マリノス」、三菱自動車は「浦和レッドダイヤモンズ」の親会社だ。今回の資本提携がJリーグの規約に違反するおそれはないのか。

益子 確かに1つのグループが2つのチームを持つことはできない。われわれは現在浦和レッズに5割超を出資しているが、連結対象とならないように対応する(出資比率を下げる)。今月中には正式決定し、公表したい。

(撮影:大澤 誠)

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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