どん底三菱を手に入れた日産ゴーンの「野望」

無慈悲のコストカッターが再び辣腕をふるう

――5月の提携発表時、ゴーン氏は「日産はあくまでも株主で、再生を担うのは三菱自動車自身」と述べていた。なぜ今回三菱自動車会長の就任へと踏み込んだのか。

ゴーン 取締役会長は取締役会を掌握し、ガバナンスの向上を担う。会社の経営を担うわけではない。私は経営に透明性があるか、予算がきちんと立てられているか、中期計画が策定され、その通りに実力が発揮されているかなどをチェックする。実際に経営するのは、CEOとマネジメントチームだ。

三菱自動車は日産、ルノー、アフトワズ(ロシア)、東風汽車(中国)などで構成される大きなアライアンスの一員になる。最大のメリットを益子さんが受けられるように支援するのも会長の役割。心を開いて相談できる人がなかなかいないCEOをサポートし、アドバイスもしていく。

ただ再建するのはあくまで三菱自動車自身であり、独立性を持つことが重要だ。これは5月の会見から何も変わっていない。日産としては必要な人材、専門性、ノウハウを提供するなどして支援はするが、これはあくまで三菱自の要望があったから。日産から提案したわけではない。COO(最高執行責任者)に就任するトレバー・マンなど一部を除き、日産側の人間が直接三菱自動車のオペレーションにはかかわることはない。

辞めたい益子氏を慰留した

――一方で益子氏は「新体制への引継ぎが役割」と言っていた。社長職にはなぜとどまるのか。

快活なゴーン氏とは対照的に、益子氏には疲労の色がにじんでいた

益子 報酬を返上し、新体制ができるまでの引き継ぎをすると話してきた。この考えは変わらず、ゴーン氏にも、新体制発足時には退任したいと伝えていた。しかしゴーン氏からは、三菱自動車の独立経営、新体制のスムーズな船出、信頼回復、シナジー追及を考えると、どうしても残ってほしいと再三強い要請を受けた。この6カ月間の出来事を考えると心の整理がつかず、引き続き経営を担うことを前向きに考えられなかった。

ただ4月に支援を要請して以降、ゴーン氏は情熱をもって再建に取り組んでくれた。新体制を軌道に乗せ、来年度から始まる次期中期計画の道筋をつけることも経営者の責任であると、考え方を整理した。経営責任についての批判はあると思うが、こういう責任の取り方もある。

ゴーン 益子さんは辞めたいと言った。何度も退任したいと言った。ただ私が「残ってほしい」と要望した。辞めてもらっては困る。アライアンスを実現するために重要な条件だった。益子さんとは長年にわたり協力してきており、とても信頼している。「やめたい」という個人的な感情を犠牲にして、三菱自動車の利益、そしてアライアンスのために残ってくれとお願いした。益子さんにはプロ意識があるので、自分の感情よりも会社の利益を優先してくれた。

三菱自動車は日産の子会社や一部門になるわけではない。三菱の従業員には、三菱は三菱のままであるということを理解してほしかった。そのためにも益子さんを慰留した。三菱自身で再生するという力強いメッセージになったと思う。

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