――過去の時代を生きてこられた方からは、仕事は辛いものという前提で、「社会人になったら甘くないんだ」とか、そういう発言をよく耳にしますが……。
お父さん世代に説明しても、もう何十年もそれでずっときたから、説得することは難しいですよね。お父さん世代はほどほどに無視して、次の世代の若い人たちに、過去の常識を、もう押しつけないことが大事だと思います。
辛い仕事はロボットに奪われちゃうから、辛い思いをしたくても、もうできなくなってしまうんですよね。「好きなことでしか生きていけない」時代が間違いなくやってきます。
――私たちが当たり前に使っているインターネットも、情報流通にかかるコストを取り払う、ロボットのようなものですよね。
そうですね。Facebookとか、SNSを使うようになってからやっぱり「この仕事はもうなくなるな」とか、「これ、いらんな」っていうものが結構出てきたんですよ。
たとえば、絵画を展示するギャラリーは、アーティストよりも宣伝力がない場合、もう終わると思います。ギャラリーが代わりに売ってくれる場所で、代わりに宣伝してくれる場所だったから、昔はブースターとして機能していたんです。だから、自分の売り上げの中から「いくらかはお渡しします」っていうことは、すごく辻褄が合っている感じがした。
でも、最近はホームページで、「キングコング西野が個展をする」っていう文章をギャラリーさんが上げても、誰も見ていない。そこで、ギャラリーさんから僕のところに連絡があって、「このホームページの記事をシェアしてください」と言われたんですよ。それで「あれ?おかしいぞ。なんか、僕がギャラリーの宣伝しちゃっている」と思って。
いや、それだったら、照明さえあればハコなんて別にどこでもいいですから。こっちのほうが宣伝力出ちゃったなと思ったら、相変わらず昔と同じルールで「絵の売り上げの何%をいただきます」っていうのは、もう通用しないですよね。芸能事務所も同じかもしれない。それもね、壊したのはSNSですよ。
遅かれ早かれ「職業」や「肩書」は、なくなる
――「影響力を持つ個人」の時代が来てしまった。
はい。個人がギャラリーを選ぶし、個人が事務所を選ぶ。だから、こんなことを言うとすごく角(かど)が立つし、また怒られるんですけど。もうギャラリーとか事務所が、「影響力を持つ個人」を干すことはできなくなった。逆に、個人の側が、事務所やギャラリーを干すことはできる。完全に逆転しちゃった。
で、当たり前ですけどお客さんも1回事務所やギャラリーを介すより、もう個人のファンなんだから、個人のメディアであるSNSのほうに行ったほうがいい。だから、間に入る人から通用しなくなって、いなくなっちゃうだろうな、と。まあ、すべてかどうかはわからないですけど、究極的な話、遅かれ早かれ、「職業」や「肩書」は、もうなくなる。
テレビの深夜番組のノリではあったんですけど、僕も「お笑い芸人」から「絵本作家」に肩書を変えて、さらには「パインアメの特命配布主任」と、肩書をコロコロ変えてみたんですけど、まず「肩書を越境してもいいよ」っていう空気感をつくっておかなきゃやばいと思ったんですよね。なぜなら、すべての職業には寿命があるし、ここからかなりのスピードでいろんな職業ごとなくなっていくから。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら