介護の世界から返り咲いた鬼才プロゲーマー 新世代リーダー プロゲーマー ウメハラダイゴ
「目先の勝ちを追わない」 ウメハラの勝負観とは?
ウメハラは、「勝負に伴う勝ち負け」を「どうでもいいこと」だと切って捨てる。「目先の勝ちを追うと、先々必ず勝てなくなる」のが勝負の本質だという。
だが、普通のプレーヤーにとって、勝負の帰結はつまるところ、勝者と敗者だ。敗れた者たちは、感情をむき出しにして再びウメハラの前に立つ。時には声を荒らげ、捨て鉢になって挑んでくる者もいる。時には罵声を浴びせられることもある。彼らとの勝負に勝ったとしても、また別の敗者が挑んでくる。長らく勝ち続けてきたウメハラにとって、勝負とは終わりがない「らせん」のようなものだ。
一方、ウメハラにとっての勝負とは、「勝つこと」ではなく、「勝つために努力する過程を楽しむこと」だという。勝負とは自分との闘いなのだ。「勝ち負けにこだわっているうちは大きな成長はできません」。
そのような勝負観を持つウメハラには、結果だけに拘泥して、一喜一憂する様子は理解できなかった。それに、当時のゲーム界では、ウメハラの実力は抜きん出ていた。「つねに挑戦者でいたい。そのほうがゲームは面白いですから」。その願いをかなえるにはウメハラは強くなりすぎていた。「日本国内に敵なし」と言われた天才は、突如、勝負の舞台から降りた。
まったく無縁の介護の世界に身を投じる
格闘ゲームも麻雀も辞めたウメハラが選んだのは、勝負ごととはまったく無縁の介護の世界だった。その理由を「負けたときの苦しそうな顔やイライラした顔、つらそうな様子を見るのが耐えられなかったんです。勝負の世界に身を置くと、これを延々と見続けなければならないのかと思うと苦しくて。それでもう、今までとはまったく違うことをやってみようと思った」と振り返る。医療関係で働いている両親の影響もあり、「まずは介護でもやってみよう」と思ったという。
だが、この介護で働いた経験が、ウメハラを大きく変える。それまではゲーム業界の天才としてあがめられ、ちやほやされていたが、介護の現場ではいちばん下っ端の介護士にすぎない。誰かに奉仕する経験は初めてのことだ。