三菱自動車、優先株大量発行のツケ--完全復活に待ち受ける資本政策の高いハードル
2007年度に最終黒字化し、完全復活をアピールすべく発表された三菱自動車の次期3カ年計画(08年度~2010年度)。2月末に開かれた記者会見での関心は、ロシア新工場でも新世代電気自動車でもなく、次の一点に集中していた。
「9000億円の(単体)繰越損が残るが、09年度から始まる優先株配当をどうするのか」
これに対し、旧東京三菱銀行出身の市川秀常務は「期間損益だけでは繰損解消は不可能。当社は過去10年間配当をしていないが、このままでよいとも考えていない。可能なかぎり早い段階で復配にもっていきたい」と話すにとどまった。
三菱自動車が発行する優先株の総額は約4400億円。5600億円を発行していた双日が昨年買い入れ消却を済ませたため、現時点で日本最大規模だ。
三菱自動車は北米での過剰な販売金融政策による貸倒損失がたたり、04年3月期には2154億円の連結最終赤字に転落。株主資本比率も債務超過ギリギリの1・5%にまで低下し、資本増強が急務だった。しかし、当時の資本提携先だったダイムラー・クライスラー(現ダイムラー)は増資引き受けを拒否。04年と05年の2回にわたり、三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行(当時)のいわゆる三菱御三家を中心に8000億円近い資本を調達した。
「負債での調達ができない中、資本調達に頼った。この財務計画は当時むしろ賞賛されたほどだ」と、市川常務は振り返る。たしかに、巨額の資本注入があったからこそ今の三菱自動車が存在する。北米の損失処理を進める一方で、発売したSUV「アウトランダー」や新型「ランサー」などがヒット。当期純利益も07年3月期には87億円へと黒字転換した。08年3月期は赤字のオーストラリア工場閉鎖で特別損失220億円を計上してもなお200億円の利益を上げられるほどに回復した。
しかし、業績は順調に回復しているのに株価は冴えない。優先株引受先の一つであるJPモルガン証券による優先株1260億円の普通株式転換(推定10億株超)によって株価は一時100円を切るまで下落した。07年秋には上方修正発表で一時的に200円台に戻ったが、足元は160円前後で推移している。
現在、普通株総数はトヨタ自動車の1・5倍の規模である54・9億株にまで発行済み株式数が膨らんでいる。全優先株が転換された場合、現行の転換価格でも35億株、下限転換価格で換算すると69億株も普通株が増加してしまう。ただ、引き受け先は三菱グループといういわば“親族”なので、転換価格引き下げを狙ったカラ売りで株価の暴落、すぐさま普通株に転換して利益を貪るといった事態は起きにくい。しかし、この優先株自体が普通株転換による希薄化リスクを含むことに変わりはない。
また、仮に09年度から始まるとすれば、220億円の優先株配当負担も重い。三菱自動車が次期中計の3年間で見込む営業キャッシュフローは多く見積もっても3000億円程度。一方、設備投資は2700億円を計画している。「たとえ優先株配当を支払っても手元流動性で賄うことができる」(市川常務)というが、余裕があるわけでもない。
三菱自動車の優先株処理を考えるうえで、参考になるのがいすゞ自動車の前例だ。同社は02年の経営危機時にみずほコーポレート銀行などに対して優先株1000億円を発行。300億円を04年に発行したCBで置き換え、400億円分を剰余金で07年に買い入れ消却した。残る300億円分は三菱商事、伊藤忠商事に引き渡し、普通株に転換。事業パートナーとしての関係強化に充てている。
三菱自動車の優先株処理も、潜在的な大株主である三菱御三家との提携シナリオ抜きには語れない。そのうえで買い入れ消却するのか、それとも転換して資本提携を強化するのかという判断が可能となる。