戦後最大の経済事件「イトマン事件」の深奥 「住友銀行秘史」に描かれていること

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更に、ここでは磯田の娘(黒川園子)も不明朗な絵画取引に加わっていたとされる。 これらの美術品は鑑定評価書が偽造され、市価の2~3倍以上という価格であったが、河村や伊藤がこれを認識しながら買い受けたことで、イトマンは多額の損害を受けた。それ以外にも、伊藤や許は、イトマンから地上げや実現可能性のないゴルフ場開発へ多額の資金を投入させた結果、3000億円以上の資金が住友銀行からイトマンを介して闇社会に消えていったとされるが、これらの巨額資金の行方は今もって謎に包まれている。

河村が伊藤を抑えられなかった要因として、イトマンが繊維商社立川の株式を巡りアイチと攻防を繰り広げた際に、イトマンの取得金額に50億円上乗せした価格でアイチに売り渡す密約を結んだ河村は、アイチのオーナーと伊藤からその代償として合計10億円の謝礼を受け取ったことで弱みを握られ、伊藤の意のままに操られるようになったと言われている。

1991年元日、朝日新聞が「西武百貨店→関西新聞→イトマン転売で25億円高騰」「絵画取引12点の実態判明、差額はどこへ流れた?」との大見出しで、絵画取引の不正疑惑をスクープした。続く1991年7月、大阪地検特捜部は特別背任の疑いで、伊藤、許、河村を含む6人を逮捕し、起訴した。2005年10月、最高裁の上告棄却決定により、許について懲役7年6月・罰金5億円、伊藤について懲役10年、河村について懲役7年の刑がそれぞれ確定した。

こうしたイトマンに絡む数々の不正を明るみに出し、住友銀行を救うために、日経新聞の大塚将司記者と組んで様々な内部情報をリークしたのが、実は本書の著者・國重惇史氏だったのである。本書は、國重氏が当時克明に記録していたメモによって再現された、貴重な経済史の資料であり、またそれと同時に、一人のバンカーの生き様の記録でもある。

個人的に存じ上げている國重氏は、「楽天の元副社長・副会長」であり、住友銀行の元MOF担(大蔵省担当)であるが、彼にこれほど壮絶な銀行員時代があったのかと驚くばかりである。 実名で登場する住友銀行の人々も、多くを直接存じ上げているので、読んでいて大変複雑な気持ちになった。行内での恐ろしいばかりの権力闘争と、人の顔色と風向きを見るのに素晴らしく長けた「プロサラリーマン」ぶりを見ていると、仮に自分が辞めずに銀行に残っていたとしても、とても生き残れなかっただろうなとつくづく思う。

「エリート」のひ弱さやうら悲しさ

次に、本書に出てくる主要な登場人物、特に「バブルの怪人」たちについても説明しておきたい。 主役は勿論、裏社会とつながっている伊藤寿永光と許永中だが、「金屏風事件」の佐藤茂も見逃せない。磯田一郎も河村良彦も所詮は銀行員であり、いとも簡単に裏社会に絡みとられてしまう様は、何か日本の「エリート」のひ弱さやうら悲しさを感じさせるものがある。

次ページ「バブルの怪人」たち
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