戦後最大の経済事件「イトマン事件」の深奥 「住友銀行秘史」に描かれていること
目黒の行人坂は、江戸時代に火付けの大罪を犯した八百屋お七の井戸があるだけでなく、明和の大火を引き起こした凶事の地として知られている。ここに位置する目黒雅叙園は、イトマン事件を始めとする数々の経済事件の舞台となってきた。地鎮祭は土地の神を鎮めるために行われるのだが、その神は欲に目がくらむ人々に対しては魔物となって牙をむくというのである。
目黒雅叙園を巡る取引は余りに複雑で、不動産の世界に精通した人でないと理解不能なので、その概要をざっと整理してみたい。 目黒雅叙園は、1931年に細川力蔵が本格的な北京料理や日本料理を供する料亭・総合結婚式場として開業した。目黒雅叙園を運営する合資会社 雅叙園は細川一族により経営されていたが、バブル期の過大投資が仇となり、2002年に運営会社の株式会社雅秀エンタープライズが東京地裁に民事再生手続きを申請し、883億円の負債を抱えて経営破綻するに至った。
2007年にこの銀行債権を安く買い取ったのが、米国の投資ファンド・ローンスターで、同社は土地と既存ビルを所有し、新規ビルを建築する傍ら、結婚式場やレストランの運営権は結婚式場大手ワタベウェデングに譲渡した(株式会社 目黒雅叙園として再建された雅秀エンタープライズは、現在はワタベウェディングの完全子会社になっている)。
ローンスターの買収資金865億円はモルガンスタンレーから調達し、その不動産ローンは証券化され、販売された。 2012年、みずほ銀行は大口与信先であるローンスターにこの借換資金を提供、不動産ローン約800億円を証券化し、これをみずほ銀行、新生銀行、三菱商事、ゴールドマンサックスが買い取った。 2013年、ローンスターが目黒雅叙園のほぼ全ての土地(3万7301平米)と、敷地内にある下記の全5物件(延床面積15万5820平米)を入札に出した。
(1)アルコタワー(オフィス)、目黒雅叙園(ホテル)……地上19階、地下3階
(2)百段階段(東京都指定有形文化財)……地上6階
(3)アルコタワーアネックス(オフィス)……地上16階、地下1階
(4)ヴィラディグラツィア(チャペル)……地上3階
(5)アルコスクエア(店舗)……地上1階
森トラストが1300億円で買収
これに対して複数の企業が応札し、1340億円を提示したシンガポール政府投資公社(GIC)が優先交渉権を得た。ところが、目黒雅叙園の一部土地に関する裁判が継続中であることを嫌ったGICは交渉から撤退し、2014年、森トラストが1300億円で全ての施設をローンスターから取得した。
ところが、2015年に森トラストは、取得して間もない目黒雅叙園をラサール・インベストメント・マネージメント・インクが組成した特別目的会社(SPC)に1430億円で売却してしまう。新しいオーナーとして名前が出たのはラサールだが、SPCに対する同社の出資比率は2.5%に過ぎず、残り97.5%は中国政府系ファンドのチャイナ・インベストメント・コーポレーション(CIC)が出資しており、現在の実体的なオーナーはこのCICである。
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