国際テロの資金源「象牙」の違法取引を許すな 日本が取り組むべきことは何か

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(筆者作成)

これを図示してみると、需要を抑制する政策によって、需要曲線が左側にシフトします。その結果、取引量が低下するのみならず、価格も下がって、密猟者に対して、象牙取引の魅力を減退させる効果も持ちます。

上述のように、現在象牙の需要の8割が印鑑の材料としての需要です。そのため、印鑑に利用される象牙を削減できれば、象牙の需要自体が劇的に減ることになります。この印鑑の需要を削減することが最も有効な対策なのです。

そもそも、日本の印鑑を利用する商慣習自体を見直すといった根本的な方法もあります。印鑑に象牙を利用したものの印鑑登録を新規では認めないといった規制だけでも有効でしょう。当然のことながら、象牙に代わる代替素材の開発の促進も有力です。

流通市場の信頼性の確保

また、需要の抑制策とともに重要なのは流通市場の健全性です。現在、わが国を経由した第三国への密輸出の可能性も指摘されています。違法取引が完全には排除されていないという懸念も大きいのです。象牙を用いた印鑑の禁止と言った需要の削減に加え、違法取引の排除に向けた更なる努力が、市場の信頼を立て直し、象牙の違法取引防止への貢献となるでしょう。

かつてのような乱獲は減少したものの、依然として象の密猟は後を絶ちません。象牙の世界的な消費量は減少していますが、それでも世界的に問題になっているのは、野生のアフリカ象が依然として7年間で3割も減少していることに加え、テロリストの資金源になっているという新たな問題が看過できないためです。

印鑑への需要の抑制、市場でのトレーサビリティの向上などによる違法な象牙の取引の防止にる信頼回復によって、わが国の象牙取引の健全化への取り組みを期待したいところです。実際WWF(世界自然保護基金)も、究極的には国内の市場の閉鎖を主張しているものの、現在はむしろ市場での監視の強化と健全な市場にむけた改革を第一に掲げています。

需要の抑制策とともに、市場での違法な象牙の排除、国外への持ち出しの摘発などを積極的に進めれば、日本も野生の象の保護とテロリストの資金源の根絶の両方に貢献できるはずです。

中泉 拓也 関東学院大学経済学部教授

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なかいずみ たくや / Takuya Nakaizumi

1991年東京大学経済学部卒。2003年東京大学大学院経済学研究科修了 博士(経済学)

ミクロ経済学専門。ゲーム理論の応用や契約の経済理論に加え、規制の事前評価を中心に政策評価も手掛ける。総務省の政策評価審議会委員。

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