「若者の貧困」に大人はあまりに無理解すぎる 仕事や家族に頼れる時代は、終わりを迎えた

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しかし、もうかつてのように、家族は若者を救えない。家族の世帯員が縮小し、相互扶助機能は前例がないレベルまで弱まっているからだ。世帯年収も減少傾向にあり、若者の親世代や祖父母世代は、自分たちの生活だけで精一杯であろう。

家族への依存も、もはや困難に

『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(上の書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

わたしは生活に困窮してしまった若者たちの相談を受けて、年間何十件も生活保護申請に同行する。NPO法人全体としては、なんと年間300件超(!)である。申請に行くと、福祉事務所職員は必ず、「頼れる家族はいませんか?」と聞く。

しかし、家族が扶養できた事例には、残念ながら一件も出会っていない。若者が生活に困窮していたとしても、家族は頼れないのだ。そもそも家族を頼れる関係にあるのなら、NPOや役所には相談しないのではないか。

奨学金を借りて大学に進学する学生の多くも、家族による学費負担や仕送りが十分に期待できない状況にある。家族相互に扶助が可能な世帯は、いったいこの日本にどれくらい残っているのだろうかと嘆息せざるを得ない。雇用の不安定化や賃金、年金の減少、物価の高騰などで自分自身の生計を維持することがやっとだという世帯が一般的であるように思う。

また、悲しいことだが、家族自体が自らの子どもを、搾取の対象とする事例もある。

長年、児童虐待を受けてきたり、十分な養育や教育を家族から受けることができなかった若者の存在だ。家族の存在自体が温かいものではなく、若者本人に対して、害悪を与える存在として機能する場合もあるということだ。社会的には"毒親"などと評する論調もあるくらいである。

家族がいても期待される機能が発揮できない。あるいは家族関係自体にストレスを生じやすく、同居や支援を求めることによって、問題が悪化することもある。たとえば、精神疾患を有する若者が実家で生活している場合、疾患に対する理解が不十分な両親が、就労をしきりに促すことによって、過大なストレスを生じるといった相談事例は後を絶たない。

彼らには、「家族の支援をきっと受けられるから大丈夫だよ」などとは口が裂けても言えない。このような家族と別居して暮らしたいが、生計を維持できないから、自由な暮らしを阻害されている。これに対してどうしたらよいかと相談を受ける。すなわち、「実家から出られない若者」の悩みである。

いずれにしても、若者たちを取り巻く環境を見る際には、家族への依存は困難になっていると想定しておく必要があるだろう。さらに20歳を超えた成人に対して、家族がどこまで面倒を見るべきなのか、についても議論を進める必要がある。諸外国では当然であるが、成人した場合、血のつながりのある者同士でも、日本ほど扶養をすることはない。主に夫婦間や未成年の子どもに対する扶養義務くらいで、成人後は生活や就労を政府や社会システムが保障していく。「困ったら家族を頼る」ということが当たり前の社会でなくなることを示していきたいとも思う。

つまり、困ったら家族が助けてやればいいという論調は、ややもすると社会福祉や社会保障の機能を家族に丸抱えさせることにつながってしまう。これでは家族が共倒れの状況を招きかねず、さらに社会福祉や社会保障の発展も妨げる。そういう点において、家族扶養説は危険な前近代の思想であると言えるだろう。

藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事

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ふじた たかのり / Fujita Takanori

1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人――一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)などがある。
 

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