なぜエジソンはウォシュレットを作れなかった? 日本企業再生へのヒントは問題発明にあり

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どうしたら習慣を作れるのでしょうか?

磯部商店は、水泳連盟の方と協力して水泳のカリキュラムを考案しました。そのとき考えたのが、泳力という概念で、水泳の習熟度を等級分けして指導するように提案したそうです。水泳帽にマジックテープで色分けして張り付けるシールから、それぞれの泳力を識別し、それぞれにレーンに割り振るというような、水泳帽の使い方自体を丸ごと提案したわけです。すると、全国の小中学校が磯部商店から、水泳帽を買うようになり、当然、シェアは100%。そのときから、おむつカバーの会社から、現在の水泳帽の会社に変わったわけです。

当時、水泳帽自体は作ろうと思えば、作れました。しかし、習慣がなければ買う人がいません。決してモノそのものにおのずと価値があるわけではないのです。価値は文化、技術、環境、経済といった制約条件がそろったうえで、現象します。

非合理的なことも時には必要

もう少し理解していただくために、皆さんにあえて問いかけしてみましょう。

「トーマス・エジソンはなぜシャワートイレを作れなかったのでしょうか?」

エジソンが生きていた時代に、すでにポンプや温水器という技術があり、電気や上下水道という環境もあったのに。それは、おしりを洗ったら気持ちいいだろうな、という問題の開発ができなかったからなのです。世の中には、技術はあるけれど、問題の開発、発明自体ができていないことがあり、それによってわれわれが現在持ち合わせているシーズも宝の持ち腐れになっているかもしれないのです。昨今、苦境に陥っている家電メーカーなどの背景にある問題ともいえるのではないでしょうか。

ちなみに、1980年、TOTOがウォシュレットを広める際、ハウスメーカーを回り、お願いしたそうです。便座のすぐ近くにコンセントを作ってほしいと。その後、日本のトイレにはコンセントがあるという環境を開発でき、ウォシュレットを実現できるようになった。そして、テレビCMで「おしりだって、洗ってほしい。」と伝えることで認識開発をしていきました。

会社という営利組織においては、目的があって、合理的な理由がある人としか会わないですよね。つまり、合理的ではないことができないのです。しかし、新しい問題を開発するには、最初はランダムかもしれないが、盲目的になっている価値基準を探さなければならない。たとえば、ある大手IT企業の方に、いつも会っている人は誰かと尋ねたところ、自宅と、会社と、行きつけの居酒屋の3点の往復だとおっしゃった。これでは、世の中に困っている人がいても、目に入ってこないですね。もっと、いろんな人にあって、潜在的な問題の糸口を見つけてほしいなと思います。

三宅 秀道 経営学者、専修大学経営学部准教授

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みやけ・ひでみち / Hidemichi Miyake

1973年生まれ。神戸育ち。1996年早稲田大学商学部卒業。都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員、フランス国立社会科学高等研究院学術研究員などを歴任。専門は、製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。著書に『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)、『なんにもないから智慧が出る』(共著、新潮社)がある。

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