「106万円の壁」が映すパート主婦世帯の難問 まだ序の口、2020年問題にも今から備えよ

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なお、年収106万円はあくまでもパートをしている人が自分の勤務先で社会保険に加入するかどうかの基準であって、夫の扶養に入れるかどうかとは関係ない。配偶者の年収が130万円未満であれば、社会保険の扶養に入れる基準には今のところ変更はなく、パート主婦が「106万円の壁」の対象外のパート先を渡り歩けば、今後も扶養に入り続けることは可能だ。

だが、「106万円の壁」の対象は、2019年9月までに拡大を検討することがすでに法律で決まっている。2019年までに検討されれば2020年には決定、施行する可能性もある。 

今年の10月からの社会保険適用は、企業規模501人以上という要件があるため、500人未満の会社で働けば適用を逃れられる。しかし、対象が広がればその逃げ道が絶たれる。従業員数500人未満で年収106万円以上のパート約50万人を中心に、より多くのパート労働者が106万円の壁に直面することになる。

社会保険の適用枠がより拡大されれば、社会保険加入を嫌うパート主婦が「106万円の壁」がない企業の求人に集中する可能性もある。パート主婦は希望の職になかなかつけず、「106万円の壁」がある企業はパート人材が集まらないというミスマッチが生じるおそれもある。そんな2020年問題が勃発する可能性も、ないとは言い切れない。 

夫の配偶者手当もカットされる

国の制度だけではない。企業の対応によって家計への負担が増す可能性もある。それが夫の会社から支給される家族手当だ。人事院の「平成27年職種別民間給与実態調査」によると、民間企業の76.5%は家族手当を支給している。このうち配偶者を対象にした配偶者手当では、8割近くの企業が配偶者の年収制限を設けている。その水準は、130万円または103万円のところがほとんどだ。

配偶者手当の平均額は月に1万3885円、年間で約16万円だ。もし妻が社会保険に加入し、かつ夫の会社からの配偶者手当がなくなれば、先述の年収129万円のパート主婦世帯なら社会保険料の負担約17万円と合わせて年間30万円以上の家計負担増になる。パート主婦が夫の扶養内か否かは、それだけ家計に非常にインパクトをもつことがわかる。

しかし配偶者手当をめぐっては、経営者の約半数が不要と考えているという調査もある(独立行政法人労働政策研究・研究機構 変化する賃金・雇用制度と男女間賃金格差に関する検討のための基礎調査結果、平成21年)。実際、トヨタ自動車は月に約2万円だった配偶者への手当をすでに今年度から移行期間を設けて廃止の方向で進んでおり、ホンダは月1万6000円の手当を2017年4月から廃止する予定だ。国家公務員についても、現在月額1万3000円の配偶者手当を2018年度に半減する検討がされている。

平成27年職種別民間給与実態調査では、94.1%の企業が「配偶者手当見直しの予定はない」と回答しているものの、今後は廃止が広がる可能性もある。配偶者への手当を廃止する代わりに、子供への手当や介護が必要な家族への手当を拡充させる事例もあるが、家族構成によっては単純な手取り減となるケースもある。今後は、パート主婦の年収が低いことで受けられるメリットは次々と失われていくだろう。

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