インフレ2%には「政労使ベア合意」が必須だ 今の日銀の政策でインフレ期待はつくれない

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本来は市場が決める価格設定に、政府や日本銀行がどこまで関与してよいかという点については、法制面も含めて問題がありうる。しかし、2014年の消費税の引き上げに際して、政府は下請けいじめを阻止する観点から、増税分の円滑な転嫁を促すモニタリングや行政指導を実施した。また、オランダのワッセナー合意は、マクロ経済への波及を踏まえて、経営者団体、労働組合、政府が高インフレ抑制のための賃金抑制に関する国家的な合意を形成したものだ。

筆者の提案は、金融政策の機能の回復を図るというマクロ経済環境を整えるためのワッセナー合意とは逆向きの国家的な合意形成であり、個別業界の価格統制ではない。こうした政策目的のためには、政府・日銀の介入も十分許されるのではないか。

実現性を考えると、経済環境が改善している時に実施すべき措置である。その意味では、政府の経済対策を生かすために、年明けまたは来年4月から実施してもらうことが望ましい。また、鶏が先か、卵が先かという議論があるが、物価上昇と賃上げは同時が望ましい。

政労使間の合意を継続して3%超のベア定着を

付加価値の3分の2を占める賃金が先に上昇することを企業は嫌うし、自社だけが価格を引き上げることも嫌う。しかし、全ての企業が一斉に2%の価格引上げを行い、売り上げが2%上昇し、賃金や仕入れ価格等のコストが2%で上昇すれば、全体としての効果は中立であり、企業にも労働者にも損はないはずである。また、この取り組みは、2%のインフレを実現することで、同時に名目為替レートを2%円安の方向に促すこととなり、企業の国際競争力の低下につながる政策でもない。

2%の価格引き上げを行わない企業については、政府・日本銀行とともに、経営者団体や労働組合がモニタリングして、仕入れ価格の2%引き上げやベアを確保すれば、自然と2%の価格転嫁をせざるを得なくなる。利益が過去最高水準を更新し続けているような企業は3%以上のベアを実施すればよいし、2年連続して赤字を計上している企業ではベアを差し控えてもよい。こうした労使間合意の継続を通じて、新たな経営者団体及び組合の行動規範として、2%のインフレと3%超のベアを定着させることができないものだろうか。

マイルドなインフレを達成することで全ての経済問題が解決されるわけではないが、まずは、マイルドなインフレを回復し、金融政策の機能を回復しなければ、その後の痛みを伴う労働市場等の構造改革や財政再建は実現できない。デフレ脱却とマイルドなインフレを達成し、真の日本経済の再生に向かって歩を進めなければならない。(さらなる詳細は世界平和研究所の筆者の研究レポートを参照されたい)
 

北浦 修敏 世界平和研究所(IIPS)主任研究員

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きたうら のぶとし / Nobutoshi Kitaura

 京都大学博士(経済学)。1988年に財務省(旧大蔵省)に入省し、大臣官房、金融企画局、国際局、財務総合政策研究所、労働省職業安定局、京都大学経済研究所CAPS准教授、財務省政策評価室長、内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官等を経て、2013年より現職。

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