インフレ2%には「政労使ベア合意」が必須だ 今の日銀の政策でインフレ期待はつくれない
欧米の2%のマイルドなインフレ率とはどのようなものか。それは2%の物価上昇率と3%超の賃金上昇率が同時にかつ安定的に確保されているというものだ。
これは労働生産性が1.5%程度上昇していることが前提となる。 3.5%の賃上げがあっても、1.5%の労働生産性の上昇があれば、コストの増加、すなわち物価上昇圧力は2%にとどまるからだ。FRBの政策委員会メンバーや欧米のエコノミストは、常に物価と賃金の動向を意識しながら、金融政策の方向性を見極めようと努めている。
ここで注意しなければならないことは、この先進国が実現すべき3%超の賃金上昇率とは、日本の春闘の報道で使われる定期昇給込みの賃金上昇率ではなく、労働者一人当たりの平均賃金の上昇率であり、春闘でいう「ベースアップ(ベア)」に相当する部分である。
日本の2015年と2016年の春闘で、賃金上昇率2%程度と報道されているのは定昇込みの数字で、ベアは0.4~0.5%程度にすぎない。毎月勤労統計によれば労働者一人当たりの平均賃金上昇率(5人以上の事業所)は2014年、2015年にそれぞれ0.4%、0.1%に過ぎず、2016年の上半期の名目賃金は横ばいで推移している。日本の名目賃金の1993年以降の平均伸び率はマイナス0.1%なのだ。同期間の民間消費デフレータ上昇率はマイナス0.5%だった。
このような状況では、一般の企業や消費者の中で、物価や賃金が上昇していくと考える人はほとんどいないだろう。
ゼロインフレ、デフレがベアに反映されている
インフレ期待とベアの連動が重要なことは、日本銀行の直近7月の展望レポート(「経済・物価情勢の展望」2016年7月30日)も指摘している。米国やドイツでは、ベアの決定に当たり中長期のインフレ予想が重視されている。推計式によれば、中央銀行が2%のインフレ目標を実現できると信認されていれば、ベアは2%+α(生産性の伸び)となる。一方、日本の推計式では、過去のインフレ率がベアに強い影響を及ぼしている。過去のゼロインフレ、デフレの影響がベアに顕著に反映されているのである。
筆者の見解ではインフレ期待は全く醸成されていない。最近の日米の10年国債の金利差は2%弱であり、このことは、日本とアメリカの中期的なインフレ期待の差は2%弱であること(すなわち、アメリカの2%弱のインフレ期待に対して、日本のインフレ期待はほぼゼロ)を意味する。他のインフレ期待の指標と異なり、10年国債は市場が大きく、マクロ経済の平均的な姿が反映される。カントリーリスクの相違が小さく、資本移動が自由な世界では、理論上、各国の金利差は基本的に物価格差(インフレ期待格差)に相当する。
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