インフレ2%には「政労使ベア合意」が必須だ 今の日銀の政策でインフレ期待はつくれない

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では、マイルドなインフレを日本で実現するにはどうすれば良いのか。

時間とコストに余裕があり、また、円安を許容する国際環境があれば、ゆっくりと総需要を喚起しながらマイルドなインフレを実現することが望ましい。アベノミクスの下での黒田日銀の金融緩和は、そうした方法だといえる。緩やかに期待形成に働きかけつつ、需要を押すことで、2年程度かけて2%のインフレを達成することを目標としていた。

しかし、この目標は消費税の引き上げの効果を過少評価したことで達成できなくなった上、現在の国際的な経済環境は需要の喚起につながらず、また、金融政策の緩和の余地も狭まっている。少子高齢化が進展する中で、財政政策で持続的に総需要を喚起し続けることも難しい。

そこで、総需要を喚起しつつ、各経済主体の期待形成に強力に働きかけ、2%のインフレと3%超のベアの実現へ向けて人々の経済行動のパターンの変更を迫る必要があると筆者は考えている。

これまでの政府・日銀の経済団体への賃上げの要請は、何をどこまで上げるのかの具体的な考え方に言及してこなかった。日本の春闘の賃上げは、定昇込みという全くマクロ経済的には意味のない議論が行われており、実際に意味のあるベアはほとんど行われてこなかった。これでは、インフレ期待の形成に向けてまったく十分ではない。

日本では受け身で賃金上昇は実現しない

黒田総裁は今年6月、来日したクルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター(CUNY)教授に「なぜ賃金が上昇しないか」との質問をしている。このことは、量的緩和とそれによる需要喚起を続けていれば、インフレは自然に発生するはずとの日本銀行の認識を示しており、過去のコストプッシュ型のインフレの発生と同じメカニズムを想定していることが分かる。しかし、今の日本は人口減少の下で潜在成長率が低下しており、需要は大きくは伸びにくい。非正規雇用が4割を超えるほど、労働市場の調整機能も十分働いていない中で、受け身のまま、3%超の賃金上昇圧力が発生することは想定しがたい。

まずは、最終的ゴールが2%のインフレと3%超のベースアップの達成であることを、経営者団体、組合関係者にしっかり認識してもらうことである。その上で、インフレ期待が形成されるよう、相当規模のベアを、具体的な数値の形で、明確に求めることが必要である。

筆者は第一歩として、政府・日本銀行が仲介又は参加して、経営者団体と労働組合が合意を形成して、仕入れ価格と販売価格の2%の引上げとともに、最低2%のベアを、日本全体で一斉に実施することとしてはどうかと考えている。

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