良い値上げ 悪い値上げとは? 脱デフレの処方箋
足元では、悪い物価上昇のほうが強いと思われる。賃金上昇→消費拡大という流れが見えてこないからだ。
春闘では自動車大手の満額回答や、流通企業の年収引き上げという動きがあった。だが、その大半が一時金だったり、特別賞与だったりと、賃金水準そのものを引き上げるベースアップではなかった。
4月1日に日銀が公表した「生活意識に関するアンケート調査」(有効回答2347人)でも、1年後の支出を現在より増やすという回答はわずか4.8%。3カ月前に比べ0.2%ポイントしか上昇していない。1年後に物価が上がると見る回答が、74.2%へ21.2%ポイント急増したのとは対照的だ。
輸出企業が、円安で採算が改善したといっても、国内で設備投資を増やすとはかぎらない。日銀短観に見る2013年度の大企業・製造業の設備投資計画はマイナス0.7%と減少する。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、円安が進んでも「日本から移した生産が日本に戻ってくるとは思わない」と語る。
デフレ脱却に必要なのは 緩和よりイノベーション
一方、悪い物価上昇はすでに起きている。輸入原油や輸入穀物の価格が、円安によって上昇。資源・素材各社は、相次いで値上げを公表している。最終製品の価格を上げられなければ、メーカーや卸・小売企業の収益が悪化し、賃金が抑制され、デフレが続くことになる。
デフレからの脱却は確かに必要だ。物価が下がるということは、貨幣の価値が上がるということ。物価が将来下がるのであれば、おカネは今よりも将来のほうが、有効に使える。そう思う人が増えれば、消費や投資は先送りされる。新しいアイデアや設備があっても、おカネが使われることはなく、経済は成長しない。超高齢化社会を迎え、膨大な公的債務を抱えている日本では、経済成長をあきらめることは許容されない。
どうすればよいか。
吉川洋・東京大学大学院教授が提案するのは、「新しいモノやサービスを生み出す需要創出型のイノベーション」。安倍首相が「第3の矢」と呼ぶ成長戦略などによって規制改革や技術開発が進み、新たな需要を創出するイノベーションが起きれば、経済は成長する。
そうした革新的企業に勤めている従業員の賃金は上昇し、購買力は上がる。こうした企業が次々と出てきて、全体の消費が活発化すれば、景気拡大の好循環が生まれ、良い物価上昇が起きてくるだろう。
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