なぜ人類は地球を支配する存在になったのか すべては7万年前に始まった!

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次の人類のターニングポイントは農業革命だ。1万ほど前に植物の栽培と動物の家畜化が始まり、人類は定住生活をするようになる。私たちは農業革命の果てに生まれた繁栄の上で生活しているので、農業の誕生を単純に進歩ととらえてしまいがちだ。だが、必ずしもそうではないという。そもそも、初期の農民は健康状態や栄養状況のどれをとっても、狩猟採集生活者よりも劣悪な状況だった。出土した骨からもその差は歴然としている。狩猟採集民は一日わずか数時間の労働で十分な食料を手にすることが出来た。自然の様々な食材を手にできたので、単一、または少ない種類の作物に依存していた初期農耕民のように、飢饉に見舞われることも稀で、栄養のバランスもとれていた。

小麦が人類を奴隷化した

ではなぜ、人類は農耕という生活様式を選んだのか。様々な状況や説が書かれているが、一番、目から鱗だったのは、小麦が人類を奴隷化したのではないかという話だ。小麦はあまり競争力の強い植物ではなく、中東のごく限られた地域に自生する弱い立場の草にしかすぎなかった。それが今では225万キロメートルも地表を覆っている。これは日本の面積の6倍に相当する。小麦の視点から見れば人類を利用する事で生存競争に勝利したように見えるではないか。

むろん人類も恩恵を受けている。農耕は単位面積あたりの土地から多くの食物が手に入る。そのおかげで多くの人口を賄えるようになる。進化の通貨がDNAの二重螺旋の複製だと考えるなら、初期農民は確かに勝利したことになる。ただし、種としての繁栄は必ずしも個人の幸福に直結したわけではない。農民個々人は、長い歴史の多くの期間を飢饉の恐怖と栄養不足と重労働という苦みに直面し続けた。

農業革命で人口の増加が始まると、複雑な教義や体系をもった社会や宗教が生まれる。第一部で説かれた認知革命により虚構を生みだす力がそれを可能にした。虚構による社会秩序と文化は、見ず知らずの多くの人々を束ね、協力させる事を可能にした。法人や株式会社、貨幣、法律、国家、帝国など、これら全てが虚構の上に成立している。

しかし、ここにも負の側面がある。虚構は想像上のヒエラルキーと差別を生み出す。またキリスト教や民主主義、自由主義経済から共産主義まで、人類は様々な脱出不可能な虚構の牢獄をも生み出した。これら想像上の秩序は私たちの心の中に存在しているが、巧みに物質世界にも織り込まれており、私たちの欲望までも支配している。そして、この想像上の秩序は「共同主観」により支えられているために、一度に多数の人間の意識を変えなければ、変化を起こすことはできない。

また、変化を起こせたと思っても、より大きな共同主観にからめ捕られているだけなのだ。例えば、神に選ばれた王家を滅ぼしたとしても、神が与えた権利による自由、平等という虚構がそこには待ち構えているといったように。現代にまで続く終わりなきイデオロギー論争の原点は、認知革命と農業革命にまで遡る事が出来る人類の宿痾なのだ。

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