中卒で性転換者、台湾「異例の新閣僚」の正体 35歳の天才・唐鳳氏の素顔とは?

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唐氏の閣僚就任に対し、台湾国民の多数が肯定的に受け止めており、また期待する声も多い。性別に対する偏見をそのままにするよりは、人の能力をより重視して任命されたことは事実であり、そのため蔡英文政権や台湾政府が人材活用の幅を広げたという評価もあれば、LGBT(男性・女性の同性愛者や両性愛者、性転換者の性的少数者を指す)など社会的マイノリティーに対する差別が少しでも緩和されれば、との期待も高まっている。

公開と透明性は、唐氏がこれまで最も重視してきた原則といえる。入閣を宣言した後にも、これまでインターネットのコミュニケーションサービス「ワイズライク」を通じて、市民とメディアからの質問にひとつずつ答えている。

台湾のデジタル産業が今後も持続的な発展を遂げるためには、政府と民間がどのような役割を果たすべきかという質問に対し、唐氏は「民間のデジタル産業において、事業者それぞれが具体的な目標を自ら設定すべきだし、同時に政府は、社会内の各種ネットワーク、すなわち一般市民や政界、学生運動らなどが情報提供と対話を定期的に、かつ活発に行えるように手助けすることだ」と答えている。

ただし唐氏は「デジタル偏重」の考えを持っているわけではない。

高齢者層にはデジタル技術が浸透しづらく、パソコンの操作がいまだに苦手な人も少なくはない。そのため、「世代間のコミュニケーションや社会参画を促進するためには、高齢者層のデジタルコミュニケーション術が必要ではないか」との提案について、唐氏は「言葉、表情、ボディランゲージ、文章など、オフラインでまず高齢者とコミュニケーションをし、それを助けること。この過程でデジタル化を少しずつ進め、高齢者が積極的にデジタル技術を使えるようにすべきでは」と答えている。

政治の世界で能力が生かされるのか

今回の異例の人事については、憂慮する声もないわけではない。自由で個人的な行動をとる唐氏が、官僚機構という巨大な組織で埋没してしまわないかと心配する声があるのは事実だ。また、政界や政治において、唐氏自身が持つ理想を上手に実現させることができるのかについて、悲観的な見方も少なくはない。

こうした見方をよそに唐氏本人は至ってマイペースのようだ。自分が信ずるところは「保守的な無政府主義」と唐氏は言う。この場合の無政府主義とは、「自由な個人が自発的に集まって互いを助け、自治を行い、反独裁的な社会でともに生きていくこと」だと紹介、そのためには「政府が私の構想を採用するときまで、継続して問題の解決のためによりよい対策を打ち出していく」と述べている。

しばらく一挙手一投足に注目が集まることになりそうだ。

楊虔豪 台湾人ジャーナリスト
福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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