中国の金融自由化は、どこまで進んだのか 不良債権処理と金融システムの安定化が優先
しかしその後は、さほど大きくは変化してない。例えば、預金金利自由化直後に、人民銀行は商業銀行に対して預金金利を一定水準以上に引き上げない旨の、窓口指導を行った模様である。その一方、シャドーバンキングに対しては規制強化で臨んでいる。
金融政策運営面でも、金利自由化を機に、人民銀行が目指す金利調整型の政策運営、つまり、中央銀行が政策金利を操作し、それがシグナルとなり経済全体に波及していく運営に近づいたとはいえない。依然として、数量調整型の運営、具体的には銀行融資に対する窓口指導が行われている。
また、農業や零細企業向け貸出について預金準備率の面で優遇措置を採るなど、ターゲットを絞った「定向」政策が採られており、言ってみれば個別対応型の手取り足取りの調整となっている。さらに、金利自由化後は、人民銀行の基準金利に替わって各銀行からの報告に基づく貸出基礎金利(LPR)が徐々に指標性を持ってくるはずであったが、現在も1年物の金利が発表されているだけである。
自由化よりも金融危機の回避が優先
背景には、第一に、金融危機の回避があろう。目下金融面の最大の課題は不良債権処理である。銀行の不良債権は、公表で1.43兆元に上り(2016年6月現在。商業銀行ベース)、実際にはその数倍に及ぶ可能性もある。不良債権処理のためには、景気が維持される中で銀行が利益(昨年の商業銀行の利益は約1.6兆元)を出し続ける必要があり、銀行の預貸利鞘の急速な縮小は当局、銀行とも避けたいところである。
第二に、中国の金融は間接金融が太宗を占めており、現時点で金融政策を有効に実行するには銀行ルートに頼らざるを得ないことがある。また、政策金利が市場金利に波及していくだけの金融インフラも整っていない。
中国の金融の一つの問題として、銀行が、信用リスクが低い(とされてきた)国有企業に融資し、中小企業や農業関係向けの融資に積極的でないことがある。銀行にとっては、一定の利鞘が確保されている中では、そのほうが簡単なためである。こうした状況下で経済の弱い分野まで資金を行き渡らせようとすると、マクロレベルでは過剰緩和となり資産バブルを誘発しやすい。このため、「定向」政策を採らざるを得なくなっている。
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