日本ペイント買収劇、“白紙撤回"の先 提案取り下げたシンガポール社との関係、攻守交代へ

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日本ペイントの収益柱である自動車向けの売上高は全体の3割以上を占める。特に国内の自動車業界は関連メーカーの国籍を気にする、と言われている。いざというときの調達に不安や支障をきたさないための配慮からだ。つまり、ウットラムが日本ペイントの実質的な支配権を握ったとたん、売上高の3分の1は不安定な収益に化けることになりかねなかった。

ヤマアラシのジレンマ

一方、日本ペイント側にとっても、仮に防衛策で買収をしのいだとしても、ウットラムの協力なくしてアジアでの合弁事業がうまくいく保証はない。今回のTOBは、どちらに転んでも双方にとってメリットがなく、逆に傷つけあってしまうという、いわゆる「ヤマアラシのジレンマ」だったと言えるだろう。

さらに、今回のTOB提案には「そもそもの欠陥があった」と、ある有識者は指摘する。ウットラムは実質的にゴー氏のオーナー企業。ウットラムが日本ペイントの議決権を45%握るということは、「ゴー氏個人が上場企業の支配権を持つのと同じ。株主総会の支配権を掌握し、取締役会の監視も効かない。つまり、経営者によるガバナンスリスクが発生する懸念がある」というのだ。

また、アジアの合弁事業の支配権を握っているゴー氏が、日本本社の支配権をも握ることで、たとえばライセンス料を不当に高く設定するなど、利益の移転が容易になるという懸念も発生する。

この2つのガバナンスリスクへの懸念を解消する仕組み、反対意見がないかぎり、上場企業のTOBが成立することは難しかっただろう。

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