安倍氏が当初から望んでいたのは、集団的自衛権について一歩踏み込むことで日米同盟の復活を明らかに示し(安倍氏からの「手土産」があるとしたら、日本には、米国の領土を標的にした北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とす目的でミサイル防衛を活用する用意がある、と公式に表明することだった)、米国から、中国を名指しして東シナ海での挑発行為を批判する力強い発言を引き出すことだった。
ところが米国政府の目線は違う方向を向いていた。公式なアジェンダを、北朝鮮とグローバルな安全保障の他の側面での協力、経済政策、とりわけ貿易に焦点を絞ろうとした。
TPPを重視せざるをえなくなった
そこで安倍氏には、調整が必要となった。日本の政界関係者の話によると、日本の交渉担当者たちは、会談のほぼ10日前に、TPPに関する共同声明の最終的な言い回しを確定した。それにより安倍氏は勢いづき、首脳会談までの数日間に、TPP交渉への参加を受け入れるよう自民党に働きかけ始めた。
オバマ大統領は、日米両国間の「最優先事項」は健全な経済成長を回復することだと述べるなど、TPPおよび経済を特に重視しようとしていた。米国政府としては、TPPの背後にある低関税の理念を骨抜きにするという代償を支払わずに、GDP世界第3位の日本をTPPに引き入れたいという思惑があった。
そこで安倍氏としては、日米同盟に対処する能力があることを国内で明確に示そうとする以上、TPPを重要課題の一つに据えることを容認しなければならなくなった。
安倍氏は、今年7月に予定されている参議院選挙が終わるまでは、複雑な国内政治が絡むTPPへの取り組みを避けたかったはずだ。しかし、それは無理だということがわかった。そしてワシントン訪問を効果的に演出し成功させた。
だが、安倍氏が本格的な関税改正にどれほど真剣に取り組むかは、今の時点ではわからない。とりわけコメなどの農産品に関して、自民党内部から、また農業関連の利益団体からの巻き返しが始まった場合にはどうなるのか、先行きは不透明だ。
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